家に帰ってきたら彼女がソファーの上で丸まっていた。あれは、拗ねている。なんだこの可愛い生き物、と思ってソファーに近寄り、膝を付く。それからなるべく優しく話し掛けてみた。何があったかは分からないが、機嫌を損ねていないといい。


「どうした?」
「…帰りが遅いんじゃない」


幾分小さな声だ。どうやら普段より帰りが遅かったのを、心配してくれていたようだ。少し仕事が長引いて、…だから急いで帰ってきたつもりだったけど。連絡を入れておくべきだったなと反省した。ただそれだけのことでこんな風になってしまう彼女が愛おしいと思ってしまうのは、重症か。


「ごめん」
「……。」
「ただいま」
「…おかえり」


彼女の頭を撫でて、髪をすくって、そこに口付けた。漸く顔を上げた彼女は泣きそうな顔をしていて、それを目にした途端膨大な罪悪感が俺の心を覆った。これだから、俺は一生彼女を手放すことが出来そうにないのだ。


「ごめん」
「…ん」
「ごめん」
「もう聞いた」


彼女を悲しませたくはない。それだけを思っていた。寂しそうに俯いた彼女を抱きしめて、あと一回だけ謝らせてくれ、と心で呟いた。



(ごめん、な)(別に寂しかったとか、そういうわけじゃないから)(……。)




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