「ちゅーして」
ん…?今のは俺の聞き間違いだろうか。カウンターに腰掛けた俺の膝の上に乗って、ナマエは俺を見つめている。何だ、コレ。俺が混乱している間に、彼女はもう一度同じことを言った、ちゅーして、と。プライドの高い彼女は、普段他人の目の前で俺に甘えてくることは一切ない。それなのに、今日は一体どうしたんだ。
「どうした?」
「いいからして」
「ちょ、ちょっと」
店の中でそんなことしないでよ、とティファが止めてきた。此処はセブンスヘブンであって、決して自宅ではないので、…他の奴らに丸聞こえだ。ティファが割って入ってきたからか、目の前の彼女は更に不機嫌になった。本当にどうしたというんだ。いっそお望み通りにしてやればいいのかもしれないが、流されたようで何だか納得できない。…というかこんな可愛い顔しているナマエにキスしたら、キスだけで止まれる自信がないというのが本音では、ある。
「…何かあったのか」
「何もないけど」
今度は腕を首に回してきた。ナマエが俺に甘えている。彼女が自らの意志で俺に触れてくること自体が珍しい、こんな状況でも俺は心底喜んでいた。…ティファの視線が痛かったが、彼女の背中を撫でて諫めた。すると、更にぎゅうと音がしそうなほどに抱きついてきたので、…やはりナマエは俺に甘えている。ただただ自分の顔がにやついていないことを祈る。
「クラウドはさ、」
「ん?」
「誰のもの?」
「お前のもの」
彼女の髪が目の前でさらりと流れた。反射的に梳いてみて、耳元で囁いた。彼女の腰が震えて、添えていた手に振動が伝わって。すぐ横にあった彼女の頭が俺に寄りかかってきて。幸せだ、と思って。ティファの溜息は聞こえないふりをして、耳元にキスをした。
「…飲みすぎだ」
「たまにはいいでしょ」
「たまにはな」
(私の目の前で他の女の子と仲良くしちゃイヤ)(…はいはい)
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