なんでそんなに機嫌が悪いんだ。と、私の顔を覗き込んだクラサメが言った。
「…なんだその顔は」
お世辞にも可愛いとは言い難いぞ、と言われた。そんなに釘さしてくれなくても自覚してるから言ってくれなくてよろしかったのに。スヌードを握りしめる。なんとも不機嫌な私は歩く足を少しだけ早めた。
「やっぱ、彼氏にするならクラサメくんだよねぇ」
テーブルの端でちまちまと酒を煽っていた私の耳に飛び込んできたのは、実に不愉快な話題であった。どうやら男の話で盛り上がっているようだ。私には興味ないね。と、残りわずかだったカクテルを飲み干して、コートを手に立ちあがった。やっぱり、女子会なんて来るんじゃなかった。いきなり立ち上がったから少しくらっとして、壁に手をついていると、数人こちらを振り返る。「大丈夫?」「もう帰っちゃうの?」と言ってくる友人に「明日、仕事だから」と笑顔で答え(嘘だ)、適当に代金を幹事に渡して店を出た。
「ナマエか、どうした?」
「今から帰る」
「…?早いな」
「…なんでもいいでしょ」
「…なんでもなさそうだが」
「うるさいなー」
「今どこだ?」
「駅ついたとこ」
「行くから、そこにいろ」
「え、いいよ」
「だめだ。待っていろ」
一応電話したら、迎えに来させることになってしまった。心配症の彼氏である。電話が切れた後の携帯画面を見つめながらベンチで待っていると、クラサメがやってきて、そこで冒頭に至る。
飲み会で周りの子たちが騒いでいた話の内容をぽつぽつ話しながら、彼の表情を伺い見ると、いかにもくだらないといったような顔をしていたのだ。それから私の頭を撫でて言った。
「お前はどうなんだ」
「は?」
「お前は、彼氏にするなら誰がいいんだ」
「……あなた以外の誰がいるってのよ」
「それでいいんだ」
そうして、彼は私の手を取って歩き出した。何が言いたかったのかわからない(ていうか、何言わせてくれてんのよ)訝しげな顔で彼を見ている私は、彼が前を向いたままぽつりと呟いた言葉に、頬を染めることになるのだった。
「…俺も、彼女にするならナマエしか考えられない、な」
不意打ちなんて卑怯よ。
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