見つめていた。ただそれだけのことを、私は精一杯にしていた。彼はここにいる。彼は私のことを見ているだろうか。死を忘れない世界で私はたった一人、残された。
ねぇ、貴方はいつ帰ってくるの。いつまで私を待たせるの?
なんで、死んだの?
信じたくない。私だけを置いていったなんて。どうして私だけを置いていったの。どうして私も連れていってくれなかったの。どうして私は、彼と一緒に、死ねないの。どうして、死を忘れさせない世界になんかしたの。
私は、今まで通りの世界でよかった。この世界だったら、きっとみんなの、彼のことを忘れて、私はいくらでも前に進めた。でももう違う。私は彼が死んだことを忘れない。忘れられるわけがない。
彼は帰ってくると言った。帰ってくると言ったから、私は送り出した。迎えに来てくれると信じていた。厳密に言えば、彼は帰ってきた。けれど、私が気付いた時には、彼はもう死んでいた。
どうして私が生きているの。私を苦しめるために貴方は死んだの。
貴方がしたことは私にとっては何も利益にならないよ。そう呟いて、手に持っていた花束を思い切り墓石に投げつけた。
「ばかナイン」
すきだったよ。