「あの…」
「黙ってろ」
「…はい」


先ほどまでクリスタリウムで本を読んでいた、私。するとナインがやってきた。珍しいことこの上ないので声をかけると、彼は私の隣に座って、こう言った。「報告書が再提出になったから手伝えコラ」…珍しくもなんともなかった。苦笑して、はいはい、と答えた。読んでいた本を閉じて、ナインの報告書を見てやることにした。なんとも誤字だらけである…隊長がよく叩き斬らなかったなぁとぼんやり考えていた。

やはり報告書に使う言い回しというものはワンパターンである。読んでいた本を持ち、返してくるからちょっと待ってて、と声をかけ席を立った。確かクリスタリウムで、報告書等の閲覧もできるはず。本を返すついでに参考になるようなものを探してこようと思った。しかしまぁ、ナインのペンを取る姿の似合わないこと。ちらりと後ろを振り返って、少しだけ笑ってしまった。


「すみません」
「はい、何でしょう?」
「その本なんですけど、もしかして」


途中別のクラスの候補生に声をかけられた。どうやら先ほどからずっと、この本を探していたらしいのだ。私ったら読んでもいないのにずっと本を持っていて!他の人の迷惑になってしまった。「ごめんなさい、これ」と、謝りつつその男子に本を手渡した。その男子は怒ってはいなかったらしく、笑顔でお礼を言ってくれた。なかなかの好青年である。よかった、とひと安心しつつ、その本について少し話をしていた。

ところで。突然背後に現れたのは、私に報告書を手伝えと強要してきたナインであった。実に不機嫌そうな顔をしている。私が手伝うと言ったのに、放っておいたから怒ってしまったのだろうか…!「行くぞ」と言われ、無理矢理に腕を引かれる。その男子に対して別れのあいさつなど何もせず、ナインにされるがままクリスタリウムから出た。そのまま、0組の教室へ向かう途中の廊下まで来たところで、ようやっと腕が離された。

と思ったら今度は抱きしめられたのだ。そして冒頭に至る。何が何だかわからない。顔は見えないで、肩口から向こうだけが見えている。それにしても、かなり強い力で抱きしめられている。「ナイン?」と声をかけるも、ナインの腕の力が増すだけだった。もしかして甘えている?そう思って、腕をナインの背中にまわしてみる。彼が私の肩に顔を埋めてきた。…完全に甘えている。


「なかなか帰ってこねーなって思って」
「うん」
「探しに行ったら違う男としゃべってて」
「…ああ」
「むかついたんだよ」


文句あっか、と繋げた彼はようやく腕の力を緩めて、私と向き直る。顔が真っ赤だ。
つまり私が違う男子と話していたから嫉妬したと。そういうことですか。くす、と笑いをこぼすと、ナインが「何笑ってやがる」と喚いた。


「ふふ」
「…んだよ」
「かわいいね」
「うるせぇ!!」



アンニュイプレス(Even if it is a crime)




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