彼が帰ってきたという情報を耳にした。突然。それまでやっていた課題もおざなりに、片付けることもせず放りっぱなしでクリスタリウムを飛び出していく。正面玄関まで全速力。彼が、帰ってきた。近付いていくと、仰々しい朱の集団がいた。丁度出くわしたみたい。その中でもひときわ目立つ不良に向かって、思いっきりダイブ。


「ナイン!!」
「お、おまっ…いきなり抱きつくんじゃねぇぞコラァ!!」


私は周りの目も気にせずナインに飛びついた。ああ、彼だ。帰ってきた。緩みかけた涙腺をきゅっと締めて、怒鳴る。私がどれだけ心配したかも知らないで!黙って抱きしめられるくらいしなさいよ!と。ナインはバツが悪そうにあー、とかうー、とかいいながら視線を斜め上に逸らす。…まぁ、何にせよ彼がこうして無事に帰ってきた。それだけで私は満足だ。
他の0組の人たちは先に行ってしまって、玄関に残っているのは私とナインだけになっていた。ナインはあたりをきょろきょろして人がいなくなったことを三回くらい確認してから、私を抱きしめ返してくれた。あったかくて、落ち着く。ナインの匂いがする。私の大好きな匂いだ。…やっぱり、泣けてきた。


「帰ってきてよかったっ…」
「…帰ってくるに決まってんだろーが」


半ば呆れたように、ナインは呟いた。目の前で私がべそをかき始めているのにこの態度。少しくらい女の子に優しくしてくれたっていいんじゃないの。そんなところまで考えが及んでいないんだろうけども。

想像してしまった。このまま帰ってこなかったらとか、そういう悪い方向へ。最近自分の記憶から人が消えていくことが多くなった。戦争のせい。ナインのこともそうして忘れてしまうんだろうか、いや、彼は死ぬことなんてないのだとは思うけど。彼の記憶を失うというのは、とてもつらいこと。


「…ナマエ」
「なに…っ」
「馬鹿なことばっか考えてんじゃねーぞ、オラ」
「わ、ちょっと」


いきなり目元をゴシゴシとこすられた。…涙を拭ってくれたみたいだ。力加減が容赦なくて少し痛い。「変なことでいっつも悩みやがって」と彼は言った。変なことって。私は真剣に…!文句を言ってやろうと思ってナインの顔を見上げた瞬間、ふいに唇に掠めた柔らかい感触。一拍開けて、キスされてると理解した。ああ、この男は。
ナイン。ナイン。大好き。大好きなの。失いたくない。忘れたくない。傍にいてほしいよ。ずっとずっと。だからこれからもちゃんと私のところへ帰ってきて。重なった唇から、全部伝わればいいんだけれど。涙が止まらなくて、「泣き虫だな」と、ナインに笑われてしまった。




back




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -