02


「この子ね、先週コクられたんだから。経済学部の一年の子に」
「うっそー! 聞いてなぁい!」
 美樹が周囲を気にせず大声をあげるので、亜沙子はどやされたみいに肩をすくめた。
「それで、どうしたの? どうなった?」
「別にどうもならないよ。断ったもん」
 食後のコーヒーを飲んで答えながらも、亜沙子の頭の中では金銭問題が渦を巻いていた。
 高校時代ほどでもないが、女子が花を咲かせる話題と言えば「恋バナ」で、それは今も変わらない。だが、亜沙子にはしばらく恋愛に関する話などご無沙汰だった。元々多少無理をして進学したので、授業についていくのにはかなりの努力を必要とされる。油断すると単位を落としかねないのだ。
 さらに慢性的な金欠。素敵な殿方との出会いを妄想する余裕もなかった。
「で? どんな人? 背高い? カッコイイ?」
 美樹の質問責めに亜沙子はいささか閉口する。
 その経済学部一年の子、には、先週いきなり廊下で声をかけられたのだった。その時亜沙子は遅れているレポートの提出期限を延ばしてもらおうと、担当の先生をさがし回っていた。
 目の前で立ち止まり、「柊亜沙子さんですか?」と声をかけられたので、そうだと答えると、「好きです。付き合って下さい」だ。
 見ず知らずの男子から突然そう言われても、嬉しいというよりは気味が悪い。初対面で告白されて、その相手と付き合う人間などいるのだろうか。
 いや、いる。隣にいた。
 美樹は電車の中で若い男性に交際を申し込まれ、そのまま今も付き合っている。本人いわく、「運命の出会い」だそうだ。亜沙子の知る限り、彼女の「運命の出会い」はこれで四度目であり、過去三回の「運命の出会い」から「必然的な別れ」までは唖然とするほど早かった。
 亜沙子はちゃらちゃらしたナンパ男は苦手なので理解しがたかった。しかし今回の自分の件はナンパでもなさそうだった。
 とにかく、レポートの件で頭がいっぱいだった亜沙子は驚きつつも丁重にお断りし、向こうもあっさり引き下がった。顔なんてよく覚えていない。眼鏡をかけていて、暗そうな人だったという記憶はあるが。
「ねー亜沙子。彼氏ほしくないわけ?」
「ほしくない。それどころじゃないから」
 コーヒーを飲み干し、深々とため息をつく。
 結局レポートの提出は待ってもらえたのだが減点は免れない。自業自得とはいえ、この頃ついてないことばかりだ。
「とか何とか言って、実はもういるんじゃないの? 亜沙子って学校の帰り、たまにどこか行くじゃない。誰かと会ってるんでしょ」



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