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「言っただろう。彼は異常なほど君に執着しているんだ。君に近付く邪魔者は排除しようと思うだろう」
「でもそれは先生の予想でしょう」
「分かるんだよ。私も変人だからね」
 説得力があるようなないような。
「でもなあ、原因は何だろうなあ」
 と黒峠は呟いた。
「原因?」
「みんながおかしくなった原因だよ。さっきの冗談のように、新種の病気とは思えないんだよね。大体、人でなく場所に限定されているのが妙なんだな。それにね、私にはどうも、みんながふざけているように思えるんだ」
 確かにふざけた状況ではあると思うが。
「演技だっていうんですか?」
「そうじゃなくてね……、君は未成年だから酔っぱらったことなんてないと思うけど、酔っぱらいは見たこと、ない? あれに似てるんだな、どうも」
 ううん、と黒峠は首を傾げる。
「大体みんな、陽気におかしくなってたじゃない? それに似ているんだよ。叫んで暴れたり、傷つけあったりしてないだろう。酔うっていうのは、大脳が麻痺して、判断力が低下するってことなんだよ。興奮して、気分が良くなったり、気が大きくなったりするわけ。抑止力が低下して、より本能に忠実になっちゃうわけだけど、それに近いんじゃないだろうか。だとすると脳に何かしらの影響が起きてるのかなあ。これだけ多くの人間が律儀におかしくなってるんだから……何かしらの毒かな。でもねえ、液体でもないし、気体でもないし。何だろうなあ。まあ、何でもいいか」
 一人べらべら黒峠が喋るのを聞いていたが、最後の言葉に亜沙子は思わず転びそうになった。
「何でもよくないでしょう」
「だってわからないんだもの。私は文系でね、理系はさっぱり。毒物にも詳しくないしね。しかし、毒だとも考え難いんだな、これが。症状は酔っ払いだけど、妙なルールに縛られているあたり、どっちかというと、催眠術に近いというか……」
「そ、そんな大量の人間を一度に催眠術にかけることができるんですか」
「できるわけないじゃないか。君は馬鹿だなあ」
 あんたが言ったんだろう。
「とりあえず共通している症状は、外部にばらさないこと。あと、自分の異常性を指摘された時に見せる、過剰な反応。これは、心の深層で、不本意な行動をとらされていることに対して拒否する気持ちがある故の反応なんじゃないのかな」
 つまりどういう意味ですか、と問おうとして亜沙子が口を開きかけると、ノックの音が部屋に響いた。三回。また三回。音は次第に大きくなっていく。



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