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 先生が黒板を指さした。黒板には、今朝とは違うことが書いてあった。「坂下先生の提案、さらに多数決により今日から夏休み。始業式はお気に召すまま」。
 怒りがこみ上げてきた。亜沙子はもともと短気な性格だった。ここまでくると、馬鹿にされているような気がしてならない。
「先生、いい加減にして下さい!」
 坂下先生は驚いていた。
「何を言っているんだ柊。今日は変だぞ」
「変なのは私じゃないって言ってるじゃないですか! 大体、十月に夏休みってなんですか! 暦の上ではむしろ秋じゃないですか! 夏って何よ、夏って。夏は終わったのよ! 意味がわからないわよ! 非常識でしょう、おかしいでしょう! みんな変よ! どうかしてる。普通じゃない!」
 先生は亜沙子を見つめ、「そうか、変か。そうだな」と鼻で笑った。「だがな、今は俺たちが普通で、お前だけが変なんだよ」
 先生は荷物をまとめて側を通り過ぎ、そのまま誰もいない廊下へ姿を消した。校舎は、朝よりもっと静まり返っている。亜沙子はうずくまって泣き出した。何が悲しいのか分からない。ひと晩にして、みんな変になってしまった。
 それにしたって酷いじゃない。みんなでよってたかって私のことを変人呼ばわりして。どう考えたって私の方がまともなのに。
 みんながおかしくなってしまって悲しいから泣いているのか、自分が変人呼ばわりされて悔しいから泣いているのか分からなかった。もういい。このままここにいよう。どうせみんな変なんだから。私もずっとここにいればそのうち変になるかもしれない。そうしたら、楽になれる。
 急に頭が重くなった。気分が沈んでいるからではない。本当に重くなったのだ。何かが頭の上に乗っている!
 しかも、その何かは動いているようだった。亜沙子は恐怖を感じた。今日は何なの、次から次へと。私は安心して涙を流すことも許されないのだろうか。
 思い切って、頭の上の何かを引っつかんだ。下ろしてみると、それは黒い鳥だった。カラスかと思ったが、違うようだ。カラスにしては小さい。そう言えば以前、ペットショップで見たことがある。九官鳥だ。何故こんなところに九官鳥が?
 その九官鳥はと言うと、亜沙子につかまれても嫌がる素振りを見せず、じっとしている。
「参ったなあ、夏休みだって?」
 背後から覚えのある声が聞こえてきた。そこにいたのは、例の鳥かごを持った男だった。
「あれ君、さっきの」
 言いかけて男は叫んだ。「オコゲ!」
 オコゲ? オコゲというのは、いわゆるあの、ご飯が焦げた部分のことだろうか。
 しかし男の視線をたどると、どうやら自分がつかんでいる九官鳥のことを言っているらしい。男は怒ったように鳥かごを床に置き、腕を組んだ。



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