からかっているのだろうか。しかしこの山越という奴は、普段から鬱陶しいくらい真面目な性格で、冗談の一つも言ったためしがない。
「違う。今日の最初の授業は現国よ」
「黒板を見てみなよ」
面倒そうな、投げやりな言い方だ。亜沙子は言われるまま黒板に目をやった。
坂下先生の角ばった字で、そこにはこう書かれていた。
『本日の授業は一限目から六時限目まで居眠り。途中昼休みをはさむ。トイレ休憩なし』
亜沙子はその文字を凝視した。
「ありえない」
「柊さんは遅刻してきたから知らないだろうけど、朝のホームルームの時に校内放送がかかったんだ。今日の授業は全学年全クラス統一で、『居眠り』だって」
だから、何で居眠りなのよ。どうしてそんな放送がかかるのよ。
目眩がしそうだった。山越は何故、こんな意味不明な発言をするのか。やっぱり私をからかっているんだろうか。いや、いくらなんでも生徒全員、先生までもが揃ってこんな馬鹿げたいたずらをするわけがない。
だとしたら何なのだろう。夢でも見ているのだろうか。
もっと受験生としての自覚を持てと昨日まで説教していた担任は居眠りを強要し、クラスメイト達は従順に居眠りを続ける。寝ぼけ眼の学級委員と遅刻した私。
何だこれは。絶対におかしい。
「どうしちゃったのよみんな! 居眠りだなんて!」
「うるさい!」
亜沙子が叫ぶと、それに負けないくらいの大声で坂下先生が怒鳴った。硬直している亜沙子に、坂下先生はすごい剣幕で続けた。
「柊、黒板の字が読めんのか! いい加減にしろ!」
黒板の、字。
言われてもう一度確認してみた。なるほど、さっきは気がつかなかったが、黒板の文句には続きがあった。『他人の居眠りを妨げる行為は厳禁。そのような行いをすれば、罰として明日までに反省文を五枚書いてくること』。
「もういい、柊。お前は帰って反省文を書け」
幾分トーンダウンした声で言うと、坂下先生はまたもあのつらそうな体勢での居眠りを始めた。山越も同じだ。亜沙子以外、一人残らず机に顔を伏せている。
不自然な沈黙は亜沙子という存在を拒んでいた。疎外感に耐えかねて、亜沙子は足音も立てずに教室から出ていった。
静かにドアを閉め、その場に佇みながら改めてこう思った。
何だこれは。
何が起こっているのだろうか。悪ふざけにしては度を越しているし、第一目的がわからない。面白くもないし。
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