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「い、今から絶っ対にこの中入って来ないでくださいねっ!!絶対ですよ!?絶対ですからね!?」


と、興奮ぎみに言ってベッドから皆を遠ざける人物はアリババ・サルージャ。
バルバッド国の元第三王子であり、今はシンドリアの食客である。

彼はどいて!どいて!と声を荒げながら、部屋の真ん中に置かれたベッドの半径2メートル外にシンドバッドや八人将、友人であるアラジンやモルジアナすらを追いやっていた。

彼が護るベッドには彼の恋人であるジャーファルが眠っていて、もうかれこれ30分も穏やかな寝息をたてたまま。
アリババはジャーファルが目覚めるのを今か今かと待ちわびていた。



さて、何故こんな可笑しな状況になったのか。
順を追ってお話しよう。






ことの始まりはシンドリアが誇る優秀な魔導士、ヤムライハの失恋から始まった。
彼女の恋愛は些か上手くいかない傾向にあり、その日もフラれてしまったのだが…

その日で五連敗中の彼女は酷く疲労していた。


何故こうも上手くいかないのか。
何故自分はフラれてしまうのか。
何故だ…?何故だ?何故だ!?何故だ!?!

そんな悲しみは疲労した彼女の中で困ったことに怒りに変化し、ぶつけ場所のないそれを研究に打ち込むことで発散。
自分ばかりが人を好きになるからいけないのか!?何故誰も私を好きになってくれないんだ!!と泣き叫ぶ彼女の気迫たるや、他の魔導士が顔をひきつらせてしまった程だ。


自棄になったとて、流石はシンドリアが誇る天才魔導士といったとこか。
そんな彼女が惚れられないなら強制的に惚れさせばいいという恐ろしい発想の元、衝動のままに作ってしまったのはもう何となく予想がついたかもしれないが、所謂惚れ薬というやつだった。


失恋の悲しみに加えて研究後の睡眠不足、疲れ、ハイテンション…
その他諸々が相まった彼女は最早正常とは言い難かった。
薬が出来上がった今、彼女が行うものはひとつ。
効果の程を誰かで試したい衝動。
つまりは…


人 体 実 験 で あ る 。



ハァハァと息を荒げながら獲物を探して徘徊する彼女に気付いた衛兵は即座に王に報告。
危機を覚えたシンドバッドはこれ以上ない機敏さで八人将を集合させ対策に移ったわけだが、悲劇はここからさらに加速していく。





「やめろ落ち着けヤムライハ!王さまからのお願い!本当お願い!」
「どいてください王よ!!私は世紀の発明品であるこれが成功か否か実験する義務があるんです!!感情を操作し他人に抱く好意までこちらで思うがままに出来るとなれば高度で貴重な大変興味深い知識となる!成功すれば魔法の無限の可能性が広がり、さらには私の悲惨な恋愛経歴に終止符を打てる上にシンドリア国民に飲ませれば我らが偉大な王へのさらなる敬愛、いやそれどころか指先ひとつで如何なる命令も聞く狂気的なまでに従順な…」
「おいぃいい!?おっそろしいこと言ってんじゃないぞ!?悪役の台詞じゃねぇか!!シンドリア国民に何する気だお前!!ここは自由の国だぞ!?!」
「何を仰いますか王よ!!不満だとかそんな思考抱けない程に強力な魔法ですので問題はありません!!」
「お前が何言ってんだよ!!問題しかねぇよ!!王さまビックリ!!ちょ!お前ら早くコイツを何とかしてくれ!!野放しにしとけんぞ!!引っ捕らえろ!!」


青い顔でGO!GO!と指示を送るシンドバッドにこれまた青い顔でコクコクと何度も頷いた八人将。
一斉にヤムライハ捕獲に乗り出す。

が、相手は暴走中とはいえ女性。
男性陣が本気でボコボコに出来るわけもない。
タジタジしてるところを魔法で対抗されれば人数は此方に分があれども劣勢になりつつあった。


そんな中現れた救世主が彼女、ピスティである。
もはや同じ八人将内では彼女しかあの魔導士を止めることは出来ない。

「頼むぞピスティ!マジで!お願い!」とシンドリアの命運を小さな彼女に託した一同。
いい年した男共が一斉に祈るように両手を組んでいるなどこの国始まって以来の異様な光景である。

しかし事態はそれほどまでにある意味緊迫していた。





「私に任せて!」



高らかに宣言したピスティ。
大きな鳥に跨がり大空を飛ぶ彼女はピイィ!と笛を鳴らした。

瞬間、大鳥は数度空中を旋回した後、ぐんぐん加速してヤムライハに向かっていき――

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