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「……?大丈夫、ですか?」


急に緩くなった責めに少しだけ頭を醒ますと、キョトンとしたような紅明の声が鼓膜を揺らした。
虚ろに呼吸を繰り返すアリババの汗に濡れた髪の毛に唇を寄せて、あやすように鼻を擦り付ける。

何がだろう?と思うと同時に己の下半身からプシュッと何かが出たのがわかった。
恐る恐る視線をやれば、紅明の手を汚しながらそれはポタリ、ポタリとシーツに染みを作っていく。
精液でも先走りでもないそれはつまり、
考え付くと同時にアリババはサァ…っと顔を青ざめた。


「男でもなるんですね。へぇ…スゴイ。」


呑気な声が聞こえたがアリババはそれどころではなく、初めての感覚に困惑する。
数度に分けて出てきたそれが不浄ではないというのは解ったが綺麗なものであるわけもなく。
今もなお紅明の手を濡らした液がシーツを濡らしていく様にガタガタと身体を震わす。

逃げ出したいのにそれも叶わず、被さる紅明の声が耳元で聞こえるのがまたアリババを血の気を引かしていた。
瞳に溜まる涙は先程のものとは違い…言葉に出来ずにハクハクと口を開いたり、閉じたり。


「…っ、あ、ぅ…、あ、」
「もう一回見たい。出ますかね?」
「や、だ…、やだ…、こぉめ、さ、やだ…っ!やだ…っ!!」
「んん、たぶんいける。はず。」


必死なアリババの声も無視してまた紅明の手が動く。
水気を増してグチャグチャと鳴る音はアリババの羞恥を煽り、ただ消え去りたい衝動に駆られながらボタボタと涙を流した。


またしても醜態を晒すわけにもいかず、意識を保とうと唇を噛み締める。
けれどもそれは紅明に邪魔をされ、知り尽くされた身体を好きなように弄ばれる。
悲鳴のような喘ぎと啜り泣く声は静かな部屋に飲まれて消えて、己の手の中壊れていくアリババに紅明はどこか満足そうに目を細めていた。

延々と繰り返されるこのいたぶりは何が目的でいつ終わるのか。
叫んだところで誰かが聞き届けてくれるわけもなく。
グチャグチャとまた無理矢理欲を駆り立てようとする手の動きにアリババは嗚咽混じりの悲鳴をあげたのだった。




*




「……アリババ殿、怒っちゃいました?」


そう聞く紅明の声にアリババはゆるゆると重い目蓋を上げた。
ぼんやりと見える紅い髪はコテリと傾げた首に垂れ落ち、「綺麗ですね」と小さく呟く。
まぁ枯れた喉では音にはならず、パクパクと口が開いただけだったが。
紅明は聞こえない声に何を言ったのかともう一度問うたが、何度やってもアリババが同じように息を漏らしただけだったのでついに諦めたのか。
ハァ…と溜め息をついて半開きのままの唇に噛み付いた。

行為が終われば紅明はうって変わって元に戻る。
甘く自分を求める彼は愛おしいが、この頃にはアリババはもう意識を飛ばしてしまっているか、指先ひとつ動かせぬ程に疲れきってしまっているのだ。
抱き寄せてやろうにも叶わないのだから悲しい。

ツゥ…と銀の糸を引いて離れた舌先をぼぉっと見つめていると、紅明はアリババの肩にポスンと顔を埋めた。



「……嫌いに、なりましたか…?」



くぐもって聞こえたのは不安げな声。
初めて聞くその声に、アリババは少しだけ彼を理解したような気がした。

嗚呼、なんだぁ。彼はただ不安だったのか。
与えられるものに疑って、受け入れられることで安堵して…

不器用で、拙くて…実に、滑稽だ。


何が彼を狂わせたのか。
過去の環境、現在の責、或いはその両方か。
考えた所で紅明の過去や現在を知らないアリババに答えなど見つかるはずもないのだから、思考を凝らすだけ体力の無駄である。

アリババは体液に汚れたシーツに身を沈めながら、やっぱり離れようとも出来ない自分に呆れてため息を吐き出したのだった。

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