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彼…練紅明は、時折暴力的なまでの欲求に取り憑かれていた。

例えばそれは人体の限界。
精神維持の限度。
肉体と思考の滅裂。
求めるものはその時々によって違ったが、共通して言える事はただひとつ。
彼はいつだって悪気などを持ち合わせてはおらず、それは言うならば命を知らぬ子が虫を殺すような、はたまた知識を求める学者の異質な好奇心のような…
極めて純粋で清浄な感情なのだということだった。

紅明は普段は乏しい表情をギラギラと輝かせて壊れかけていくアリババの様を見つめる。
悲鳴は彼にとって心を痛ませる材料になり得ないのか。
心地良さそうに目を細め、口許に笑みすら浮かべていた。
アリババは加速していく暴力に為す術もなく、どろりどろりと犯されていくのだ。


何が彼を狂わせたのか。
過去の環境、現在の責、或いはその両方か。
そんなことはアリババにとってどうでもよかった。
考えた所で紅明の過去や現在を知らないアリババに答えなど見つかるはずもないのだから、思考を凝らすだけ体力の無駄である。

アリババはただ苦痛にも似た快楽に耐えるだけ。
麻痺する思考の中で幼子のような無垢ないたぶりに耐えながら、ただ拒むことも出来ずに縋るように手を伸ばすだけ。

誰にって、そんなものはただ一人。
アリババを苛む張本人に、だ。
虐げるのは紅明なのに、その彼に助けを求めるだなんて実に馬鹿げた話である。



今日もまた、夜は更け落ち行為は始まる。
人払いをされた部屋はやけに静かで、緊張に高鳴る鼓動の音すら煩わしい程大きく聞こえた。


「アリババ殿、アリババ殿、」


無垢な声で己を呼ぶ声。
瞳の奥を鈍く光らせ、笑みを浮かべて非道を繰り返す。
それはひと夜中止むことはなく、声を枯らして朝を待つのだ。

アリババは広いシーツに身を沈めながら、それでも離れようとも出来ない自分に呆れてため息を吐き出したのだった。




*




「あ゛ぁ……ひ…っ、ぅぐ…っ、」


行灯の光だけがゆらゆらと揺れる薄暗い部屋の中。
淫靡な香りの漂うそこで、夜伽と言うにはあまりに苦しそうに引き攣った悲鳴が小さく響く。
シーツに預けた身体は力無く、もう腕を動かすのも儘ならない程。
涙で濡れた瞳は虚ろで、後孔をグチグチと卑猥な音をたてて掻き回す長い指が前立腺を突く度新たな雫を垂れ落とした。

かれこれもうどのくらいの時間がたったのだろうか。
止まぬ行為に最早快楽とも苦痛ともわからなくなったアリババはピクリと身体を痙攣させた。


どうにも今日は限界を見るが目的らしい。
これに何の意味があるのかは当人しか知り得ぬ事だが、彼は肝心な所を何も語らない。
唐突に行為は始まり、性急に駆り立てられた快楽。
それは未だにアリババを休ませる事無く延々と続く。

幾度も達したそこからは最早透明な液をトロリトロリと流すだけで吐き出すものは何もない。
なのに前立腺を擦られ無理矢理勃たされる苦痛。
嗚呼、先日のどれだけ懇願しても我慢を強いられた時とどっちがどれだけマシなのだろう。
霞がかる思考でそんなことを考えるが答えがわかるはずもない。


余所事を考えていたのを悟ったかのように中に埋まる指が増やされる。
アリババは深くを置かす骨ばった指にぎゅっとシーツを握り締めた。


「は、ぅ…あっ、ぁ゛…っ、」


既に三本咥えこんでいたそこにもう一本受け入れる余裕などあるはずもなく、無理矢理割り開かれる感覚に背筋が震える。
拒んだ所で止めてくれない事はもう嫌になる程学習したのでせめて痛みだけでも和らげようと呼吸を繰り返すが上手くはいかず。
荒い呼吸を繰り返す度口の端から涎が垂れた。



「アリババ殿?今何を考えてました?何を思いました?」



問う彼に病んだ心は見当たらず、ただ知り得ぬものを知ろうとするように。
穏やかに聞いては返答を待つ。
答えられないアリババを見ると少し不機嫌そうにしながら突き入れた指をバラバラに動かした。


「ひ…っ、ぅ、あ、あぁ…っ、」
「アリババ殿、答えてください。何を考えたんですか?それは私に対してですよね?何を思ったんですか?肯定ですか?それとも否定?」


顔を覗き込む紅明が見えたが考えれたからといって言葉に出来るかと言えばそうではなく、苦しげな呼吸の音がひゅうひゅうと漏れただけ。
焦れた紅明がグイッと腕を後に引けば中に埋まる指が内部の弱いところをえぐり、アリババは声に成らない悲鳴を上げて身体を強張らせた。

途端、襲ったのは内からぶわりと沸き上がるような何かで、自分の身体じゃないようなふわふわとした妙な感覚がアリババを蝕む。
何度も達したせいで吐き出せない分、絶頂だけを得てしまったのか。
いつもより長引くそれから逃れようと必死にもがくが、紅明は易々とアリババの身体を押さえ込んでまたグチッと指を動かした。


「ゃ、やだ…っ、こ、めさ…っ、も゛、むり…っ、」
「……。」
「ぉねが、も…、ッ…!」


質問には飽きたのか、答えてくれないと諦めたのか。
口を閉ざした紅明はパッと掴んでいた腕を離した。

シーツに倒れたアリババに覆い被さるように押さえ付け、後を責める手はそのままにしとどに蜜を垂らすだけの自身に触れる。
人差し指が溢れた蜜を塗り付けるように弄れば、過敏になったそこに与えられる有り余る刺激にアリババは力なくシーツを握り締めた。

苦しい、苦しい。
止めて。死んじゃう。

呂律すら回っていない声で絞る言葉も紅明は聞き入れてはくれない。
意識を手放してしまいたいのにそれも叶わず、強弱を付けて弄ばれる度に意識を戻し、永遠にすら思えてくるいたぶりにひたすら耐える。
自身から得られるのは快楽と同等以上の苦痛で。
それなのにガクガクと腰が揺れて。
あぁもう、何が何だかわからない。

好き放題に嬲られる。
苦しくって恨めしい。
なのにどこかで彼を求めて。
何故かだなんて、そんなもの…
理屈でわかれば苦労はしないよ――

*

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