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奴隷商なんて仕事をやり始めてもうどのくらいの時間がたっただろうか。

別に好き好んで始めたものではなかった。
幼少期からあらゆる汚れ事を重ね、最早まっとうな人生など望めない自分の生きるための手段でしかなかった。
そうやって諦めのようについた仕事でももうかれこれ10年近く続けているのだからまったく呆れたものである。


チャリ…チャリ…と悲しげな金属音を鳴らしながら歩く商品。
男もいれば女もいる。
大半は労働力或いは処理道具になれる若者だが、年端のいかない餓鬼から棺桶に片足を突っ込んだような老人まで年齢は様々。
微々たるものでも金になればと売られてきた訳あり品ばかりだ。
どれもこれも死人のような顔付きで、重い足取りで引き摺られるように歩いていく。

絶望、嘆き、悲鳴、啜り泣く声。
鳴り止まぬそれらに心が痛まないわけではなかったが、もう慣れた。
人生なんて所詮は慣れなのだろうなぁ。
どんな非道もあっさりこなせる。

彼らを拘束する鎖は重く、赤の他人がそれを持つ。
処刑台のような競売場へと連れていかれ、人生は本人不在のまま勝手に決められる。
その仲介になる自分は一体何様なのだろう。


自らに問いかけたところで彼らを救えるわけでもなければ何かが変わるわけではない。
世界は残酷で理不尽だ。
助けを求めたところで救いの手があるわけもない。
周りにいるのは神でも仏でもヒーローでもなく欲に塗れた人間なのだ。

俯き嘆く暇があるなら私くらい殺してみせろよ。
殺して自由になればいい。

そうやって内心彼らを嘲笑して自己を保っていた。
拒む壁となるのも自分なくせして実に馬鹿げた話である。



ジャーファルは鎖を引く。
痛みも苦しみももう慣れた。
今更何も怖くはない。

彼らは重い鎖をつける。
絶望と悲観の中で誰か助けてと他者に縋った。




*




「――また君?そろそろいい加減にして欲しいんですが。」


土で汚れた髪を掴んで顔を持ち上げれば、少年は牙を剥く勢いでジャーファルを睨んだ。
毎度毎度隙あらば逃走を謀る彼は足についた鎖のせいで上手く走れず、あっさりと掴まるとわかっているのに逃げるのを止めない。
どうにもこの少年は学習しないのかしようともしないのか、折檻にどれだけ痛め付けようとも懲りずに何度も繰り返した。

別に逃げたところで困るような価値のあるモノでもないし未だ大した距離も逃げれてないので捕まえることも容易いのだが、面倒には変わりはない。
諦めの悪さは今までで一番だ。
そう思える程の愚かで哀れな子供だった。


思わず溢れた大きな溜め息。
逃げないように背中を踏みつけ、首輪をふたつ取り出して顔を歪める。

ひとつは彼に今まで付けていたもの。
どうやら地道に石で切ったらしい。
ご苦労なことだと使い物にならなくなった首輪をポイッと投げ捨て、もうひとつの新たな首輪を片手で細い首に嵌める。

今度のは前より厚い皮にしたからちょっとやそっとじゃ千切れないだろう。
少なくとも石ごときでは歯はたたない。
そいつをカチャリと小さな音をたてて施錠し鎖と繋ぐ。


しっかりと嵌まったことを数回鎖を引いて確かめて掴んでいた髪を離せば、少年はべチャリと地面に崩れ落ちた。
咳き込みながら唸る声。
悔しそうな顔を見るのはもう何度目のことだろう。

それを見下ろしながらジャーファルはわざとらしく溜め息をついた。


「いったい何回繰り返せば学習するの?痛いのは嫌いでしょう?」
「……っ!!」
「ほら、ごめんなさいは?」


グッと背を踏む足に体重をかければ苦しさに呻く悲鳴じみたひきつった声。
骨を折ったら面倒なので折れない程度まで踏みつける。
ろくに栄養も取れずに痩せて弱った身体には余る痛みだったのか、少年は脂汗を額に滲ませながら地面に爪をたてていた。

*

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