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「ねぇ、楽しそうになんのお喋りをしているんですか?」



突然聞こえた異常なまでに柔らかな声にビクッとするアリババとシンドバッド。
ギギギ…と鈍い音がしそうなくらいぎこちなく振り向いた二人の瞳に映ったのは菩薩のように穏やかな笑みを浮かべているジャーファルで…

ヒィ…っ!?とひきつった悲鳴をあげた二人に構わずジャーファルは一歩、また一歩とゆっくりと歩み寄りながらコテンと首を傾げた。


「私も混ぜてくださいよぉー。」
「……っ!!」
「シン、私を置いてアリババくんと二人でお喋りだなんて狡いなぁ。」
「や、やややや、やぁジャーファル…!ほ、ほら、ウサギさんが待ってるよ…!?こっちに構わず行ってきな…!?」
「ウサギ…?あぁ…」


しどろもどろに後ろに置き去りにされたウサギのぬいぐるみを指差したシンドバッド。
ジャーファルはチラリとそちらに視線をやると、



それを拾ってブチッ!!!とふたつに引き裂いた。



無惨に引き裂かれ綿の飛び出たぬいぐるみをポイッと捨ててにこにこと微笑んでいるジャーファル。
シィン…とした沈黙がアリババとシンドバッドの間に流れる。

ただ一人、にこにこと笑っているジャーファルは沈黙をまるっと無視してクスクスと楽しそうに笑った。



「ふふふっ。ありがとうアリババくん。君の容赦も情けもない全力の腹パンのおかげで魔法はすっかり解けたみたいだ。」
「……っ!?」
「最初の一発はともかく、あとの連発はあれかな?シンと一緒に悪ノリしちゃったのかな?いーいパンチだったねぇ。」
「あ、あの、ああああ…あの、ご、ごめんな、さ…っ、」
「何を謝ることがあるの?アリババくんにはお礼をしなくちゃねぇ?」


ゆっくりと甘さすら含んだ声色が逆にアリババの恐怖心を煽る。
涙目で真っ青になっているアリババの頬にひたりと触れたジャーファルはシンドバッドの手からナース服と黒のウサ耳を奪うとアリババにトンッと押し付けた。




「……それ着て私の部屋で足開いて待ってろ。たっぷり"お礼"をしてあげますよ。」




ドスのきいた低い声と真顔。
そのままペイッと部屋の外に追い出されたアリババ。
目の前でバタン!と乱暴にドアが閉められる。


待ってジャーファルさん!と追いかけようとしたアリババだったが、その後すぐに部屋の中から聞こえてきた嫌な音の数々に残されたシンドバッドの末路を悟り…

そしてこれから自分の身に起こる事を悟り…


しゅんしゅん泣きながらジャーファルの部屋へと向かったのであった。
かくしてこの騒動は無事…とは言い難いが、一応幕を閉じたのだった。








余談ではあるが数時間後、解毒薬を作ったヤムライハは急いでジャーファルのいる部屋へと向かったわけだが…
そこで見たのはウサ耳をつけたシンドバッドに馬乗りになって殴るジャーファルだったそうだ。
彼女は後日、「あんな奇妙で恐ろしい光景を見たのは初めてだ。王さまの顔面を中心に笑いながら拳を落とすジャーファルさんに生まれて初めて言い様のない恐怖を感じた。」と語っている。

→おまけ

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