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「し、シンドバッド、さん…これ…ま、まさか…」


死んでるんじゃ…とは口に出すことは出来なくて、アリババはカパッと掌で口を覆った。

項垂れるジャーファルの頭からは先程の暴行の衝撃でクーフィーヤが外れ、長い前髪が顔を覆っているせいで顔色や表情はわからない。
しかし力なく手足を地面に放り投げている彼からは生気が感じられず…

アリババは呆然とその様を見つめていた。


不安で冷たくなる指先。
自分の身体が震えている事が自分でもわかる。

そんなアリババを見て横一文に口を結んだシンドバッド。
クッ…と顔を歪めながら、




「…っ、仕方ないアリババくん…っ、この黒うさナースの衣装を着てくれ…っ!」




言ったのは、またしてもなんとも場にそぐわない可笑しな発言だった。


しかもどこから取り出したのかその手には黒いウサ耳と白のミニ丈ナース服。
あまりの衝撃にアリババ再びポカン…である。



「……え?ウソ…?ここまできてもなおそんなことを?え?よく言えましたね?何が仕方ないんですか?馬鹿なんですか?その鬱陶しい長髪毟り取ってやりましょうか?」
「落ち着け落ち着けアリババくん。コイツが殴ったくらいで死ぬとでも思ったか?馬鹿め、そんなんで死んだら苦労せんわ。」
「あ、あれ?おかしいな…最初ジャーファルだって人間だぞとか言ってた人の発言とは思えない…」
「よぉく耳を澄ませてみろ。息してるだろ?」
「え…?……!!本当だ!息してる!生きてる!あぁああビックリしたあぁああ!!」
「な?冷静になった今、君は何をするべきだと思う?そう、ナース服だよ!」
「あ、ちょっとそこは意味わかんないです。」
「馬鹿野郎!看病と言えばナースだろう!?本来ならこのナース服はアリババくんと俺の初夜のプレイ用に取っておきたかったんだが…」
「ヒィ…っ!?な、なんだって…!?初夜から過激過ぎますよね!?てか初夜なんてないですけどね!?」
「見ろ!後ろにはちゃんと尻尾もついてる!このクオリティ!着るしかないだろ!?」
「着るわけないでしょ!?」


再び真顔でジリジリと歩み寄って来るシンドバッド。
瞬時に逃げ出そうとしたアリババだったがにゅっと腕を伸ばしてきたシンドバッドに首根っこを掴まれてしまった。

振り向けばウサ耳をつけたおっさんがうっすらと頬を染めているのだ。
ホラーでしかない。



「ぴぎゃあぁあぁああ!?!離して…っ!離せよおぉおおお!!」
「ハッハッハ。王さまの復讐はまだ終わってないぞー。散々迷惑かけやがっててめぇらコノヤロー。アリババくんの黒うさナース服姿をブロマイドにして夜な夜なオカズにしてやんよ。ハッハッハ。」
「な、なんて人だ…っ!!地味に精神的にくる嫌がらせをしやがる…!!下衆…っ!」
「ハッハッハ。何とでも言うがいいさ!」
「七海の〜とか言って過去の栄光に縋りついてるけど今は迷宮に入れもしない、金消費するだけの穀潰し野郎!!」
「おいそれは言い過ぎだぞ!?」
「ハサミでチョキンして虚勢するべきだ!」
「ジャーファルか!?ジャーファルが言ってたんだな!?ジャーファルが言ってたんだろ!!余計なことばっかり教わるんじゃありません!!」


ギャーギャーと言い合いをする二人。
彼らは気付いていなかった。


ゆらり…と立ち上がった不穏な影に…

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