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と、その時――


ヒュッ!と後ろから飛んできた何かがシンドバッドの頬を掠めた。
一瞬の痛みが走り、シンドバッドの頬にツゥ…と血が伝う。

そのまま壁に突き刺さったそれはジャーファルがいつも仕事中に使っている万年筆で…


ハッ!と飛んできた方を振り向けばアリババに一撃入れられた腹部の痛みに呻きながら投げたままの体勢でいるジャーファルが見えて、アリババはパァッと顔を明るめた。


「ジャーファル、さん…!?」
「ハッ…!わ、私は…何を…?!」


まだ薬の効果が切れてはいないのか、苦しそうに頭とお腹を押さえている。
その行動は無意識だったのだろう。
ジャーファルは困惑したように自分の掌とウサギのぬいぐるみを見比べては、首を傾げた。

それはつまり魔法の影響さえも越えてしまったアリババへの深い愛で…
心の奥底に根付いた思いが無意識の行動に出たのだ。


まぁ物語としては実にありきたりで陳腐だがベッタベタな展開に夢見るアリババはどうやら感動したらしい。
ワナワナと身体を震わせながら一歩、また一歩とジャーファルの方へと歩み寄った。


「ジャーファルさん思い出してください!俺です!貴方の恋人はこの俺です!!」
「私、の…?ぅぐ…っ!?」
「ジャーファルさん…っ!」


アリババの悲痛な声に苦しむジャーファル。
涙目でジャーファルに手を伸ばすアリババ。
二人の愛が苦難を乗り越える美しい展開に――




――なりたいところだが、それを面白く思わない人物もここには一人いるわけで。

そう、シンドバッドである。

そんなに簡単にまぁるく事を納めるには彼はいろいろと可哀想な目に合いすぎた。
させるか!とばかりに懐から目薬を取りだし、隠れてそれを注したシンドバッド。
ズンッ…と嘘泣きで鼻を啜りながらパッと両手を広げた。



「アリババくん!きっとそれは君のさっきの一撃がきいたからだよ!愛の拳が魔法を打ち破ったんだ!もっとボッコボコに殴ったらジャーファルも正気に戻ってくれるかもしれない!」



サラッとジャーファルへの暴行を促すシンドバッド。
流石である。



「!?!俺の一撃が…ジャーファルさんを…!?ま、まさか…っ!!」



そして信じるアリババ。
流石である。




「そうだ!遠慮はいらない!親の仇だとでも思って思う存分やっちゃってくれ!」
「…っ、」
「大丈夫だ!ジャーファルなんぞ殺そうとしたところでなかなか死なない男だ!肋骨の2、3本くらい折ったってけろっと仕事するから問題ない!仕事に支障をきたさなければオールオッケー!死なない程度にボコボコししてくれ!」
「……で、でも…っ!!」

「アリババくん!俺が押さえる!!コイツ(魔法)にとどめを刺せ!君にしか出来ない!」
「……っ!」
「ジャーファルを救い出せるのは、君しかいないんだ!!」
「〜〜っ!!」

「アリババ…やれ!!」
「う…う…うおお…うおおおおお!!」



シンドバッドの声にアリババはワナワナと身体を震わせ拳を握り締めた。
シンドバッドはコクリと頷いて、わけがわからずポカンとしているジャーファルを後ろからガシッと羽交い締めにする。



「え?え?な、何ですかシン!?あ、アリババくん!?」



困惑しているジャーファルの無防備な腹部目掛けて、アリババの拳が――

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