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「チクショウ!!まったく動じねぇ!!」
そしてそう叫びながらウサ耳を机にベシャッと投げ付けた。
思わず笑いそうになったシンドバッド。
グッと堪えながら投げ捨てられたウサ耳をそっと自分の頭につける。
「レオタードがなかったからだよアリババくん。今からでも間に合う!さぁ着てごらん?」
「嘘だ!もう騙されませんよ!ジャーファルさんのあの目!あんなに困った顔のジャーファルさんは初めてだ!!」
「そんなことないさ。俺にはわりといつもあんな顔だよ?それに網タイツを破るのとレオタードをずらしてからの挿入は古来から続く男のロマンだ。ジャーファルとて例外ではなかろう。」
「……それでまた失敗したらどうするんですか?」
「責任とって俺のベッドに招待するよ。」
「ヒィ…っ!?お断りします…っ!!」
「ちぇ〜!ナンダヨー!つまらーん!」
「つまらんじゃないです!と言うかなんでシンドバッドさんがウサ耳つけてるんですか!?」
「ギャップ萌えを狙ってみた。アリババくん揺らがない?」
「ピクリとも揺らぎませんが!?」
アリババはふざけないでください!と叫んでバンッ!と机を叩いた。
――と、同時にその目からはポロッと涙がこぼれ落ちる。
お互いまさか泣くとは思っておらず、アリババ本人も信じられないと言うようにパッと顔を反らして隠した。
けれどもそれはいつまでたっても止まることはなく。
薬の効果だとわかっていても恋人に冷たく反応されたのはやはり辛かったのか、あとからあとからひっきりなしに落ちてくる。
シンドバッドはそれを困ったような笑顔で見つめていたが、そっと立ち上がりアリババの横へと立った。
小さく震えるその肩にそっと手を置き、宥めるような穏やかな声でアリババの顔を覗きこむ。
「アリババくん…」
「すいませ、俺…なんか、悔しくなっちゃて…っ、」
「……。」
「やっぱ、悲しい、ですよね…っ、どんなのでも、ジャーファルさんに…冷たくされるのって…っ、」
「……アリババくん、」
あーあ、情けないなぁと自虐的に笑いながら乱暴に涙を拭うアリババ。
そんなことないぞと励ますように首を振るシンドバッドの頭の上でウサ耳がゆらゆら揺れる。
実にシュールな光景である。
シンドバッドはフッ…と穏やかな笑みを浮かべてアリババの肩に置いた手にグッと力を込めた。
「そんなことより、レオタードを着てくれ。」
そして出てきたまさかの発言。
慰めの言葉をかけてもらえるものだと思っていたアリババ、ポカン…である。
返答のないアリババにシンドバッドは大きく頷いてにこりと笑った。
「そんなことより、レオタードを着てくれ。」
「え!?何で二回も言ったんですか!?別に聞こえなかったわけじゃないですよ!?」
「そうか。では、レオタードを着てくれ。」
「なおも頑なに!?何なんですか!?何が貴方を駆り立てるんですか!?何でそんなにレオタード押しなんですか!?」
「ジャーファルを落とす云々にかこつけて俺が見たいからに決まってるじゃないか。バニースーツっていいよね。」
「俺の中のシンドバッドさん像が木っ端微塵に粉砕しました!!」
「よし!またひとつ俺を知れたねアリババくん!良かったね!」
「良くねぇよ!!」
最早敬語さえも忘れてしまったアリババであったが致し方ないだろう。
彼は今非常に混乱している。
さらにはシンドバッドはにっこりと笑いながらアリババを見つめ、小さくレオタードコールをするのだから本当ヤダ。気持ち悪い。
アリババは顔をひきつらせながら数歩後ずさった。
が、がっしりと肩を掴む手がそれを拒む。
「レッオタード…!レッオタード…!」
真顔のシンドバッド。
絶体絶命である。
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