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「ジャーファルさん!!!」


ダンッ!と勇ましくジャーファルの目の前に立つアリババ。
ジャーファルはめんどくさそうに視線を上げアリババを見ると、頭についたふわふわに一瞬ぎょっと目を見開く。
しかしすぐにウサギのぬいぐるみを隠すようにぎゅっと抱き締めながらにっこりと愛想笑いを貼り付けた。



「おやアリババくん。どうかしました?」



ウサ耳を付けたアリババを見ても全く動じていない。
それどころか興味すらまったく持っていない。
当然である。今のジャーファルは魔法によりウサギのぬいぐるみ以外眼中にないのだ。

つまりジャーファルのアリババに対する言動はまるで痛い格好をした若者を生温くスルーする大人の対応で。
全うっちゃ全うなのだが、普段の暴走気味のジャーファルからは想像も出来ない反応で。

アリババはいたたまれなさと恥ずかしさに若干涙目になりながらも、めげずに頭をウサ耳をピョコッと揺らした。


「こ、これ!どうですか!?」
「はい?」
「これ!ウサ耳…っ!」
「あぁ…とても良く似合ってますよ?」
「……。」


社交辞令的な似合ってますよにショックを受けるアリババ。
チラリと後ろを見ればこれ見よがしにレオタードを掲げるシンドバッドが見えて、慌てて視線を反らす。

アレだけには手を出すわけにはいかない。
男のプライド的に。
アレだけには手を出すわけにはいかない。


俺の力だけでやってやんよ!と意気込むアリババ。
スラムで知った処世術、母から学んだ男を落とすテクニック、王宮で得た媚びの売り方、その他諸々。
それらを思い出してグッと拳を握り締める。

アリババはモジモジと恥ずかしそうにしながらチラリとジャーファルを見上げた。
ぶりっこの基本中の基本、上目使いである。



「あ、あの…ジャーファルさんがこういうの、好きだって聞いたので…」
「いいえ別に?ウサギさんが好きなのであって耳がついてようとなかろうとどっちでも良いと思います。」


しかしピシャッと断言するジャーファル。
衝撃を受けるアリババ。
後ろでレオタードを主張してくるシンドバッド。

奇妙な沈黙が流れる。



「あ、そ、そうなんですか…?」
「えぇ、別に。」


「じゃあどんなのが…好きですか…?」
「このウサギさんです。可愛いでしょ?」


「……俺は?」
「……へ?」


「……。」
「あ、いや、いいと思いますよ?アリババくんがつけたいものをつけるのが一番です、よ?」


「……なんとも…思いませんか…?」
「え?えぇ、別に――…あ!!か、可愛いですよ!?可愛らしいと思います!!」


「……。」
「……えっと…あ、アリババくん…?」


「……。」
「アリババく…ぐふっ!?!」



困り顔のジャーファルの腹部にバスッ!一撃加えたアリババ。
そのままくるっと回れ右をしてスタスタと速足にシンドバッドの元に戻る。

ジッと様子を見守っているシンドバッドの前まで戻ってくると、アリババは頭のウサ耳を乱暴にむしりとって大きく振りかぶった。

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