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「……なぁ、マスルール?」
「なんスか、シンさん?」
「お前が機転をきかせて咄嗟にぬいぐるみを投げてくれたおかげで最悪の事態は防げた。ジャーファルがシンドリアからいなくならなくて本当によかったよ。感謝してる。」
「はぁ。良かったっス。」
「うん。だけどな、王さま一個だけ言わせて?……なぁ…ウサギじゃなくても…良かったんじゃない…?」
「しょうがないっス。たまたまそこにあったんで。」
「……わかってる。わかってるけどさ、26の男がウサギのぬいぐるみ抱き締めてニコニコしてる様を見せられる俺達の気持ちにもなってみろ。アイツのそんなとこ見たくないよ。見たくない。ほらご覧?シャルルカンとスパルトスなんか怯えちゃってんじゃん。抱き合って隅っこでガタガタ震えてるアレ、お前の先輩だよ?」
「はぁ。情けないっスね。」
「おいおい、そりゃないぜまっさん。これは流石の俺も泣きたいぞ?いたたまれなさ過ぎて。」
「ジャーファルさん顔可愛いから大丈夫かと。」
「あ、そういうこと言っちゃう?そういう問題じゃないんだけどな?よぉし、そんなマスルールには王さまお仕置きしちゃうぞ?人の心の痛みを知れ☆誰かあの惚れ薬とテディベア持ってこい!マスルールはまだ若いから大丈夫だよねえぇえ!?」
「スイマセンでした…っ!」


ピャッ!と光の速さで逃げていったマスルール。
ハァ…と溜め息をついてシンドバッドは目の前に広がる光景に顔をしかめた。


うふふ!と笑い頬を赤く染めながら愛おしげにウサギのぬいぐるみを抱き締めているのは、あのジャーファル。
時折唇を寄せては照れたように顔を隠している。
26の男がやっていい行動ではない。
この光景は最早史上最悪の兵器である。

何度止めさそうとしたところで「私とウサギさんの愛を引き裂くおつもりで!?酷い!!シン酷いです!!」等とワァワァ喚くものだからいたたまれない。
正直キモい。

正常に戻ったお前のためを思って言ってんだぞこちとら!と思いつつも魔法のせいとあらばどうしようもなく…
さらにはコレを解ける唯一の魔法使いは現在白目を剥いて意識を失っているのだ。
為す術もない。


さらにはこれだけではなく、シンドバッドの頭を悩ませるものがもうひとつあった。
それがコレ…





「クッソ…っ!俺のジャーファルさんが…っ!あんなウサギごときに…っ!クッソ…っ!!」





ギリリと歯軋りをしながら壁から此方を覗いている人物――
そう、アリババである。


ダン!ダン!と地団駄を踏みながら普段のナイススマイルはどこへやら。
えげつない形相で此方を睨んでいるのは、あのアリババなのだ。
威圧感が凄すぎて目も合わせられない。


面倒事が一気に襲い掛かり過ぎて胃が痛くなってきたシンドバッド。
正直まるっと放り投げて国外に逃亡したいところだがそうもいかず。
何とかしないと俺の平穏が…と憂鬱そうに溜め息を吐きながらアリババに向かってちょいちょいと手招きをした。



「…アリババくん、アリババくん?ちょっとこっちおいで?とりあえず落ち着こう?な?な?」



出来るだけやさしーくやさしーく声をかけてみる。
すると、表情は酷いままだがモソモソと此方にやって来るアリババ。

なんだ、言葉が届くくらいには冷静なのかとホッ…と息をつく。






――ことも出来なかった。
ジリジリと寄ってくるアリババの手には剥き出しのナイフ。
その切っ先がピクリともぶれずにジャーファルに向けられていたからだ。



殺 る 気 だ … っ ! !



サァ…っと顔を青くしたシンドバッドはダラダラと嫌な汗を流しながら両手を広げてアリババの前に立ちはだかった。

*

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