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「ぐふうぅう…っ!!?!」




腹部にタックル。
シィン…と辺りが一気に静まる。


大鳥がヤムライハの細い腹にめり込む様や見ているだけで痛そうだ。
現に彼女は白目を剥いて気絶してしまった。

容赦ねえぇええ!!!と顔をひきつらせながらも一応は平穏が護られた瞬間である。
男性陣はホッと胸を撫で下ろした。




が、撫で下ろさなかった人物も約一名いたわけで。
青い顔でワナワナ震えている彼…
シンドリアのオカ…政務官、ジャーファルである。


ピスティ!貴女ね!流石にそれはやりすぎですよ!?乱暴過ぎます!!そりゃあヤムライハも良くないですが万が一にも怪我が残ったらどうするの!!嫁入り前の子にあれは酷い!!同じ女性だから止められたことは評価しますし感謝してますが仲間なんですからもっと他に安全なやり方もグダグダグダグダグダグダグダグダ…


と、救世主に向かって褒めもせずにいきなり説教してしまったのが良くなかった。
ピスティなりに頑張った所にネチネチ説教されればそりゃあイラッとするのも無理はない。



「もぉ!そんなに怒んなくてもいいじゃないっ!ジャーファルさんの馬鹿っ!」



と、ワァワァ泣きながらピスティがぶん投げたものこそこの事件の渦中にあった件の惚れ薬だったのだから大変だ。
ジャーファルの顔面に激突した瞬間モワモワと煙を発し、その煙を吸ったジャーファルはパタッと倒れたっきり深い眠りについてしまったわけである。


この惚れ薬の効果は目覚めた瞬間最初に見た人物に心を奪われるというものだった。
さて、ここで発生した問題は誰に惚れさせるか、だ。
ヤムライハに治す薬を作ってもらう間とはいえ、ジャーファルに惚れられるとかなんか嫌だ。
と、いうのが一同の見解であった。

無理もない。
ジャーファルとかなんかめんどくさそう。
絶対嫌だ。


困り果てた中勢い良く挙手したのがアリババだった。
俺!俺!絶対俺!とぴょんぴょん跳ねながら主張してくる。
彼のジャーファル好きも大概である。

まぁ彼はジャーファルの恋人であるわけだし、アリババを見せるのが妥当であろう。
そう判断したシンドバッドはコクリと頷き、ジャーファルをベッドへと運んだのだった。





そして冒頭に戻る。

そろそろジャーファルの目が覚めてもいい頃だろう。
全員をベッドの側から追いやったアリババはベッドの側に待機しうっすらと頬を赤らめながら今か今かとジャーファルの目覚めを待ちわびていた。

それを見ながらハァ…と溜め息をついたシンドバッド。
困ったように笑いながら隣にいるシャルルカンへと視線を移す。


「なぁシャルルカン。アリババくんはあれ以上ジャーファルに惚れられてどうするんだろうな?愛情重くないのかな?」


そう言った彼にシャルルカンはヘラヘラと笑みを浮かべて、肩をすくめた。


「馬鹿の思考は俺には理解できないっスね。本人はあれでも自覚ないみたいですよ。時々ジャーファルさんに嫌われたかもだのなんだの俺に相談して来ますし。」
「マジで?俺もジャーファルにされるよ?」
「…幸せそうで何よりっスね。」
「……そうだな。ハァ…今よりアリババくん好きなジャーファルかぁ…どうなるんだろ。」
「所構わずちゅっちゅし出すんじゃないっスか?」
「……見たくないな。」
「……そうですね。」
「一日中アリババくん抱っこしたまま仕事するのかな。私とアリババくんは10センチ以上離れられません!とか言ってさ。」
「え、ナニソレキモい。アリババが誰かと話すたびに嫉妬して怒ったりするんスかね?私の許可なく話さないでください!みたいな?」
「ヤダ王さま今容易に想像できた!てかそれ今でも若干あるよな!ハハハッ!」
「アレでけっこう嫉妬深いですよねー。じゃあいっそシンドリア捨ててアリババとどっか行っちゃったり!?」
「あり得るな!ハッハッハ!」
「ハハハ!てか解毒薬作った所で飲んでくれなかったりして!?」
「それは不味いな!ハッハッハ!」
「アハハ!」
「ハッハッ…ハ…!?」



暢気に会話していた二人はハッ!とした。
笑い事じゃない。
大問題である。

あり得る。実にあり得る展開だ。
今はシンドバッドに対する忠誠やシンドリアに対する愛情があるからこそ保っているが、薬の効果でアリババの存在が何よりのトップになるとあらば八人将や政務官の役職など紙屑のようにポイッと捨ててしまうのではないか。

さらには警戒心の強いジャーファルが妙なものを簡単に口にしてくれるとは考えにくい。
拒否して暴れる可能性がある。


二人の頭の中に容易にその未来が浮かんでしまった。

*

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