小説 | ナノ


「未来の女性はこの体勢が好きだと聞きましたが、なるほどどうしてこれは気分がいい。まるで貴女が篭の鳥で、僕がその主になったようだ。」

私を上から見下ろして宗三左文字が言う。首筋を伝って私の頬を撫ぜる桃色の髪がひどくうつくしくて、両脇の逃げ道を塞がれたこの体勢と相まって、とても官能的に思われた。

「どうしました、何時もの威勢はどこにやってしまったんです?こうしていると貴女も、か弱いただの女のようですね。」
「宗三左文字……どいて、頂戴。」
「嫌ですよ、こんな……あなたのこんな顔など、もう見られないかもしれないのに。この目に焼き付けて、叶うならば僕が”大元の僕”に還っても思い出せるくらいに、あなたを、」

刻みつけたい、僕に、という言葉の続きは耳に吹き込まれるようにして訪れた。ぞわり、と背筋を走る悪寒に肩が震える。
それでも気力を萎えさせてはいけない、から、奮い立てて言葉を重ねた。

「宗三、もう一度言うわ。どいてちょうだい」
「わからない人ですね、何度でも言いますよ。退きたくありません。僕は、あなたの顔がこうして変わる様をもっと見たい。」
「あなたがどいてくれないなら、私は実力行使をしなくちゃいけなくなる」
「どうぞお好きに?いくらひ弱に見えようとも、この身体は男です。それも、剣を振るって戦場に立つ。女性の手足でどうにかできますかねぇ」

ふう、と溜息を吐く。目の前の彼の、しどけなく緩められた襟に右手をやった。諦めとか妥協とか、そういう風に見えるように。
少し驚いたように眉を上げた宗三が顔を寄せてくる。

「分別がついて助かりますね。もう少し物わかりが良ければもっと助かったのですが、……まあこれも一興というものでしょう。」

さっきよりも近付いた青と緑の瞳を見上げる。左手は首筋に沿って流れる桃色を軽く握った。ほんの少し、痛くない程度に引いて注意を引く。

「宗三、ほんとに止める気はないのね?」
「ありませんよ。今更、僕にすがりついておいて何を言うのやら……さ、そろそろだんまりの時間ですよ、」

と、唇を落とそうとした瞬間。ほんの少しの油断。目の前にある体の弛緩。
その瞬間に膝から力を抜いた。当然、床に尻餅をつくことになる。
地面に向かう身体、そして私に掴まれた宗三左文字の上体。勢いのままに腕を後ろへ向かわせてやれば、その丸みをおびて白く肌理の整ったおでこは容易く壁とキスを交わすことになった。
息を詰めて痛みに耐えている隙に脇から逃げ出す。部屋から出て、廊下を走って大広間へ―――向かう前に、

「籠の鳥とか、そういうの関係なく口説けるようになってから来なさい!!」

言い捨てて、改めて大広間へ向かった。頬が熱いなんて嘘だし、心臓がばくばくしてるのは今走っているからだ。そうに違いない。

「主ったらどうしたんだい?顔が真っ赤だよ」

うるさいあおえだまれ!!!!!


***150812 簡単に壁ドン出来ると思うなよ


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