小説 | ナノ


「あるじ、俺かわいい?」とはみんなおなじみ愛を求め系男子、加州清光のお言葉だ。
そして例に漏れず、うちの加州もまたそのセリフを常用する。

たとえば朝、水場で会った時に。
たとえば朝餉の後、食器を流しへ運びながら。
たとえば日の上ってきた十時ごろ、出陣の準備を終えて。
たとえば出陣を終えたお昼過ぎ、昼餉の膳を前に。
たとえば小腹のすいたおやつ時、内番上がりの身嗜みを整え終わったらしいタイミングで。
そして今、夕餉を楽しみに待つ赤みを帯び始めた縁側で。

ここまで並べ立てたら賢い諸氏は私の言いたいことをわかってくれるだろう。

つまり、鬱陶しい。

清光のことは大好きだ。きれいだとも、美しいとも思っている。
しかし、これは頂けない。もしや自分は加州に無意識にでも辛く当たっているのかと疑うレベルだ。
ちなみに乱ちゃんにお伺いしたところ、そんな扱いは感じられないとのことだ。ガチで安心した。あとノイローゼを疑われた。泣いた。

「加州はむしろ綺麗系だと思うんだけど、そんなにキュート系になりたいの?」
「きゅーと?っていうのは良くわかんないけど、俺はかわいくないといけないからさぁ」
「……まさかとは思うけどさぁ、愛す可し、って書くからかわいくなりたいなんてことは、」

ないよね?と隣に座る加州を見る。ルビーを溶かし込んだような紅色の瞳が大きく見開いて私を見ていた。

「な、んで、ばれてんの」

本当は全然知らなかったし、当てずっぽうですらない思い付きだったんだけど。
せっかくだからネタばらしは後にして、にっかり笑ってやろう。

「そりゃあ私は、清光のことを愛しているからね」



夕食後。
「ねえあるじ、さっきのホントは適当だったでしょ」
「ばれたか」
「でも俺、やっぱあるじのことだーいすきだよ」
「私も清光のことが大好きだよ」


***150609 恋愛感情ではない、たぶん


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