小説 | ナノ


ときどき実は亜風炉くんはうさぎなんじゃないかと思ってしまう。それもただのうさぎさんなんかじゃなくって、魔術師だとか奇術師だとかそんな、まるでチェシャ猫みたいなうさぎ。
彼の真っ赤な目を見るたびに、シュートを打つために高く飛び上がるたびに、わたしのなかで彼の立ち位置がうさぎのひとになっていくのだ。

そして彼の瞳は人に魔法をかける。見つめられると顔が赤く火照って、心臓がばくばく言い出すからこれはまちがいない。

(どう、…しよう)

そんなうさぎの奇術師のかれが、いまわたしの目の前でわたしにその魔法のひとみを向けている。
思考がまとまらないわたしを他所にいつもより頬のあかい緊張した面持ちのかれは息を吸って、

「ねえ翠さん、ボクは君が好きだよ」

亜風炉くんのひとみを覗きこんだら、まっかな瞳を見開いてやわらかな曲線を描く頬をよりまっかに染めてやわらかく微笑んでくれた。

どきどきしてるんだ、きみのことが好きすぎて。顔はまっかになるし、心臓も壊れそうになってる。きみは僕にどんな魔法をかけたの? なんて、あなたのいえるセリフじゃないよ、あふろくん。

魔法とうさぎと彼のはなし



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