小説 | ナノ



翼がすき、なんて告げる言葉はとうに落としてしまった。
それでもあなたがだれかから想いを告げられた、なんて噂を耳にする度に胸は痛んで息ができないし、それを断ったと知る度に目頭が熱くなるような安堵とそんな自分への嫌悪は止まらない。つまり私は幼馴染で、サッカー馬鹿で、神様に愛されたような椎名翼が好きなのだ。それこそ、すきですきで、たまらないくらいに。

そんな私の愛を一身に受けている翼は今日も恋文を受け取っていた。そんなの私が知らないところでやってくれれば私は知らない振りができるのに、まったく偶然とかタイミングとか恐ろしいものだ。そんな、翼が私に気づいてしまったら幼馴染として私は話しかけに行かなくちゃいけなくなるじゃない。


「みーちゃった。翼ったらモテモテね」
「…なまえ」
「すっごく可愛い子だったじゃない、頬なんて真っ赤にしちゃって。…まあ翼にラブレターなんてあげるあたり、大した物好きみたいだけど」
「うるさい、」
「で、どうするの?あの子」
「どうって…丁重にお断りする」
「…ふーん、勿体無い。せっかく翼でいいって言ってくれてるんだから、大事にしないと罰が当たるよ」
「――っるっさいなあ、わかってるよ!だいたい何?翠には関係ないだろ!?これは俺の問題なんだから黙ってなよ!」
「本当にわかってるの?それなら、……私のことも、もっと大切にしてよ」


あーあ、せっかくのイケメンが台無し、にならない辺りが憎たらしい。ぽかんと呆けたようにこっちを見てるけどさ、そろそろ視線を外すくらいしてよ幼馴染殿。私がそういう思考の圏外にしかいなかったのはわかってるからさ、平気な顔するのもちょっときついのよ、


「ほら、練習始まるんでしょ。ばいばーい」
「っちょ…!待ちなよ今の、どういう意味…」
「そのままの意味だよ」

 わたし。物好き。と端的に言い捨てて踵を返し校門に向かう。残酷な宣告など聞きたくはないの、今までゆっくり枯らしてきた恋心だから、最後までゆっくりと。とどめなんて望んでない。
振り返らず帰路をたどる私は知らない、サッカー部の練習にいくはずの翼が呆然とした表情のまま私の背を見つめていることも、いまその目がゆっくりと軽く伏せられたのも、その耳が真っ赤に染まっていることも、一言呟いた唇が微かに笑んだことも、


私は知らない。

「…マジ、かよ」

ただ、あなたがとても美しく微笑むことが出来ることだけをを知っている。


**110919
企画に提出予定だったもの。
両片想いとかすごい好きです。まあ彼らがそうかはわかりませんが。
お互いにあとひとつ知ったら扉が開きそうなのに気付かないのとかもどかしくていいとおもう。


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