たまには過去の話を



「夜さんは市丸隊長と親しかったんですか?」
「まあねー」



突然何を言い出すかと思えば、ギンちゃんのことだった。
イヅルが気にするのも無理はないよな、なんてったって前の隊長だし。



「ギンちゃんはねえ……近年稀に見る糞餓鬼だったよ」
「は?」



そう、あれはまだ私が十一番隊の副隊長だった頃、天才だと騒がれた彼は護廷にやってきた。
第一印象は餓鬼。
銀髪の子狐って感じだった。



「惣ちゃん、この子があの天才?」
「まあ、そうなるね」
「オバサン誰?」



私のことをオバサンと言ってのけたのが後に三番隊隊長となる五番隊三席の市丸ギンだった。
引きつる顔で無理矢理に笑顔を作りながら、思いっきり頬を抓ってやった。



「オバサンじゃなくて夜さんと呼ぼうねえ、銀狐。ったく、ここの隊は新人の教育もまともにできないのかよ、真子」
「餓鬼の言うこといちいち真に受けてもしゃあないやろうが」
「そうですよ、オバサン」
「だから夜さんと呼べや、こんの糞餓鬼!」
「夜さん、それくらいにしてやってください」



惣ちゃんに止められて渋々振り上げた拳を下ろした。
真子がニヤついてやがる。
後で一発殴っておこう、うん。



「ふうん、夜サンて十一番隊の副隊長さんなんや」
「そ、アンタより格上なんだから敬いなさい」
「ほんならお前も俺のこと敬えや」
「真子はいいの」



同期で仲のよかった真子、加えて惣ちゃんとも仲がよかったから、自然と私とギンちゃんは仲良くなった。
とは言っても、弟と姉みたいな関係だった。



「夜サーン、藍染副隊長がボクんこと苛める!」
「よし、惣ちゃんの弱点は眼鏡だ。眼鏡を取ればライフは0だからな!」
「おおきに、眼鏡盗んでくるわ!」



十一番隊は今と変わらず適当な隊だったから、よくうちの隊にやってきては他愛もない話をした。
そしてその度に真子か惣ちゃんがやってきてギンちゃんと私が怒られる、そんな毎日の繰り返しだった。



「夜サンって強いん?」
「いきなりどうした」
「隊長がそないなこと言うてたから」



余計なことを言いふらすなといつも言ってるのに。
いつかあの無駄に長い髪を毟ってやろうと思う。
もちろん、ひよ里と一緒に。



「ギンちゃんよりは強いと思うよ」
「だって副隊長さんやもんなあ」
「そ、でもいつかギンちゃんに抜かされちゃうかもね」
「その前に夜サンが隊長になってまうやろ」
「じゃあ、私が隊長になったらギンちゃんは副隊長ね」
「ほんまに!?そしたら毎日楽しいやろうなあ」



いつか話した夢のような話。
本当に夢で終わってしまったけれど。



「夜さん?」
「ごめん、何でもないよ。本当にギンちゃんは糞餓鬼だよ」
「そんなに嫌な思い出でもあるんですか?」



嫌な思い出かと聞かれれば、そうでもない気がする。
なんだかんだ言いながら楽しかったから。
もし、あの時私が逃げ出さなかったら、本当に私が隊長になってギンちゃんがその副官を務めていたのかもしれない。
もし、だなんて考えたくないけど。



「糞餓鬼だけど、私は嫌いじゃなかったよ」
「そうですか。どこか憎めないんですよね」



苦笑いをするイヅルの気持ちが痛いほどにわかる。
彼は上司としての市丸ギンを尊敬していたんだろう。
昔と違って真面目に仕事してたのかな。
いや……あの子に限ってそんなことはないか。



「市丸隊長が言ってたお姉さんって夜さんのことだったんですね」
「ギンちゃんそんなこと言ってたんだ……」



逃げ出した私のことを姉のように思っててくれただなんて、本当にアイツは馬鹿だ。
私のことなんか忘れてくれてよかったのに。
自分の後釜に私がなってるって知ったら、きっと驚くんだろうな。



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