新隊長がやってきた



三人の隊長の離反から数週間。
徐々に平静を取り戻しつつある瀞霊廷に、一筋の風が吹いた。
夏が終わり、秋へと季節が移ろうことを知らせるかのように。



「吉良副隊長!新しい隊長が決まったって本当ですか!?」



三番隊隊首室。
主の居ないその部屋で仕事をしているのは副隊長である吉良イヅル。
未だ自らの上官が謀反を起こしたことを受け止められないでいる一人だ。



「ああ、明日には正式に発表されるそうだよ」
「そうですか」



隊長不在の隊をまとめるのがこれほどに大変だとは思わなかった。
サボってばかりの隊長だったが、それでも居るのと居ないのとでは大きな違いがあると今更ながらに思い知らされる。



「市丸……隊長……」



小さく呟いた吉良の声は、誰に届くこともなく消えていった。
そして同時刻、一番隊隊舎では総隊長の溜息が洩れていた。



「だから、何で私が隊長なんかやんなきゃいけないんだって聞いてんの」
「夜、先日の一件について話をしたじゃろうが。今の護廷で隊長になれる力を持っておるのはお主だけなのじゃ」
「嫌だ。なんでギンちゃんの尻拭いを私がしなきゃなんないのよ」
「もう各隊にも連絡は済ませておる。もう決定したことなのじゃ」



突然現世からの帰還命令があり、戻って来てみれば隊長になれだと?
冗談じゃないと総隊長に抗議してみるも、総隊長はその意見を聞き入れてはくれない様子。



「だったら副隊長を隊長にすればいいじゃん」
「吉良にはまだ隊長は務まらん。とにかく、頼んだぞ」
「ったく……この貸しは大きいからね!」



けたたましい音を立てて隊首室を出ると、女は一つ溜息を吐いた。
こんなことなら帰還命令なんか無視してればよかったと思ってはみるものの、時既に遅し。
面倒なことになったなとまた一つ溜息を吐いた。



「今日皆に集まってもらったのは他でもない、三番隊の新隊長が決定した」



一応知らされてはいたものの、試験に立ち会った山本の他二名の隊長以外はその人物が誰なのか知らない。
一体どんな奴が来るのかと、それぞれが複雑な感情を抱きながら開かれた扉の先を見た。



「どーも、月闇夜って言います。あ、知ってる人も何人か居る!よかったー知らない奴ばっかりじゃなくて」



へらりと笑った女に一同の視線が集まる。
すらりというよりはひょろりという言葉が合うような姿。
女にしては背が高いが、とてもじゃないが強そうには見えない。
彼女のことを知らない何名かの隊長は、その眉間に皺を寄せた。



「月闇は先日まで長期の現世任務に就いておった。いろいろと変わっていることもあろうて、皆にはサポートを頼む」
「というわけで、よろしくお願いしまーす」



何とも気の抜けた挨拶だ。
彼女らしいといえばそうなのだが。



「ねえ、此処が三番隊だよね?」
「はい、そうですが」



朝、隊舎に入ろうとした吉良に一人の女が声をかけた。
その姿を見た吉良は息を飲む。
女が隊長羽織を着ていたからだ。



「隊首室ってどこかな?」
「あの、失礼ですが貴女が新しい隊長ですか?」
「そうだよー。月闇夜、よろしくね。ついでに副隊長も連れてきてくれるとありがたいなーなんて」



へらりと笑うこの女が本当に今日から三番隊の隊長と、自らの上司となる者なのだろうか。
また胃痛の種が増えそうだと心の中で吉良は思った。



「僕が副隊長の吉良イヅルです。よろしくお願いします、月闇隊長」
「そっか、君が副隊長ね。こちらこそよろしく、イヅル」



イヅル、と。
久方ぶりに呼ばれた下の名に鼓動が速くなる。
自分を下の名で呼ぶ人など、自分達を裏切った前の隊長だけだったのだから。



「どうしたー?あ、私はギンちゃんみたいにサボったりしないから心配しなくていいよ。あのジジイに怒られんのだけは勘弁だからね」
「いち、まる……隊長とは仲がよろしかったのですか?」
「どうだろうね、もう何年も会ってないからさ」



そう言った彼女の表情は心なしか曇っていて、聞いてはいけないことなのかもしれないと吉良は心に留めた。



「隊首室はこちらです」
「ありがとー。じゃ、今日は皆で宴会しよ!私の歓迎会ってことで」



本当にこの女は隊長としてやっていけるのだろうか。
もしかしたら前任の隊長よりも世話の妬ける人かもしれない。
こうして新しい三番隊の隊長は誕生した。



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