認めてなんて言わないけど



「どーもー三番隊の月闇ですけどー」



ノックをしても返事がなかったから、勝手に扉を開けた。
霊圧を感じたから中にいることは確かだし。
部屋の中にはしかめっ面をしたちびっ子と金髪の美女。
なーんて言えば変な光景なんだろうけど、ただの上司と部下のいつもの光景だ。



「月闇、勝手に入って来るな」
「いいじゃん、ノックしたのに返事しない冬獅郎が悪い」



しかめっ面のちびっ子こと隊長の日番谷冬獅郎はじろりと私を睨みつけた。
残念ながらそんなもんで怯むような私じゃない。



「もう、そんな顔してると皺が取れなくなんじゃない?まだ子供なのに」
「子供じゃねえ!」
「いやいや、私から見れば十分子供だから。もちろん乱も」
「私も!?」



私が子供なら夜はオバサンよーなどと訳のわからないことを言って騒いでいる乱は無視して、笑顔で冬獅郎の前に立つと机を叩きつけた。
突然の出来事に驚いている十番隊隊長とその副官。
少しヒビの入った机にほんの少しだけ申し訳なさを感じながら、一気に捲し立てる。



「ところでさあ、冬獅郎。アンタ今度現世に行くんだって?」
「あ、ああ」
「何で私誘ってくれないかなあ、え?」
「誘うって、この時期に隊長が二人も抜けられるわけねえだろうが」
「だったら私と代われ。ジジイには私が話を通す」
「……勝手にしろ」



そしてやってきた一番隊。
目の前のジジイは首を縦に振ろうとはしない。



「別にいいじゃん、ウチの隊は副官が優秀だし」
「隊のこともそうじゃが、儂が憂いておるのはお主のことじゃ。現世で破面と接触するとなれば、奴等と接触することもあるやもしれぬ」
「は?私が惣ちゃん達と戦えないって言ってんの?」
「そういうわけではないのじゃが……」



議論は平行線。
ジジイは私を行かせる気なんてさらさらないし、私も折れる気なんてない。



「夜ちゃん、そのくらいにしといてあげなよ」
「京楽さん……」



火花を散らしていた私とジジイの間に入ってきたのは京楽さんだった。
大方副官が心配して彼を呼んだんだろう。



「山じいは夜ちゃんが心配なんだよ。せっかく尸魂界に帰ってきたんだしさ、もうちょっと此処でゆっくりしててもいいんじゃない?」
「でも私は……」
「それに、護廷の中にはまだ夜ちゃんのことをよく知らない人だっている。吉良君だって、きっと今夜ちゃんに居なくなられたら困ると思うんだ」



京楽さんにそこまで言われたら折れざるを得ない。
一つ舌打ちを残して、私は一番隊を出た。
そして向かった先は十番隊。
目の前にはいつも通りに眉間に皺を寄せた彼。



「用がないんなら帰れ」
「冬獅郎は冷たいなあ、せっかく会いに来てやってるっていうのに」
「誰も頼んでねえよ」



大人げないなんてことはわかってる。
私は今尸魂界に居るべきだってこともわかってる。
それでも、私は少しだけ我儘を言ってみたかったんだ。



「ねえ冬獅郎、黒崎のこと頼んだよ」
「んなことわかってる」
「それからさ、もし惣ちゃん達に会ったら一発殴っといて」
「なんだよそれ」



あからさまに嫌そうな顔をした冬獅郎。
彼にしてみれば、一発殴ったくらいじゃ許せないんだろう。
大切な人を傷つけたから。



「私のいない間に勝手に居なくなった罰。尸魂界を裏切ったことはまた別の話なんだよ。その罰はきっと私一人が下すには大きすぎると思うから」
「わけわかんねえ」
「お子様にはわかんないよ」
「てめえ……」



だんだんと下がってきた部屋の気温に気づいて、私は十番隊を後にした。
三番隊に戻ればイヅルがお茶を手に待っていてくれた。



「夜さん、そろそろ戻ってくる頃だと思ってましたよ」
「さすがイヅル、よくわかってるじゃん」
「お腹空いたでしょう?さっき京楽隊長からお菓子を頂いたんです」
「食べよ」
「はい」



だから今はこれでいい。
ほんの少しでも長く、私が此処にいられればそれで。



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