夕日に染まる



今日は現世。
朝ジジイに死神代行の様子を見て来いって言われて。
ついこの間初めましてやったんだけど。
つーか、私じゃなくて面識のある人に行かせればいいのに。
恋次とか恋次とか恋次とか。
まあ、あそこは白哉坊が隊長だから何かと面倒なのかもしれないなーなんて思っていたら、イヅルに頭を叩かれた。
仮にも隊長だよ、私。



「痛っ、イヅルの馬鹿!」
「何とでも言ってください。まだ仕事は山のように残ってるんですからさっさと終わらせて帰りますよ」



せっかく現世に来たんでってことで、今私たちは義骸に入っている。
一護を探すという名目で街の中を歩き回ってるんだけど、どうやらイヅルは私の思惑に気づいているらしい。



「いいじゃん、ちょっとくらい」
「駄目です。どうしてもと言うのなら……」
「わかったから、ここで鬼道はやめよう?イヅル君」



私に指先を向けてきたイヅルを宥めて、大人しく一護の霊圧を感じる方へと向かう。
ほんの少し前までの謙虚で可愛いイヅルはどこにいってしまったんだろう。
これも私という存在に慣れた所為だと思えば嬉しいことでもあるんだろうけど。



「やっほー、一護」
「月闇さん!?」



義骸に入って現世の服を着ていた私達に一護は酷く驚いていた。
そんな幽霊を見るような顔で見なくてもいいのに……あ、幽霊みたいなもんか。
様子を見て来いとは言われたけど、特にすることもなく。
とりあえず一護の友人ってことにして家に上げてもらった。



「で、何しに来たんっスか?」
「死神代行の様子見?」
「俺に聞かないで下さいよ」
「代行証に不備がないかとか、現世で変わったことが起きていないかを調べにきたんだよ」



ナイス、イヅル。
代行証は見たところ異常なさそうだし、変わったことって言ってもねえ……。
一護が真子のことをイヅルに言うとは思えない、なんとなく。



「別に変ったことはねえよ」
「だよねー、現世って平和そうだもんねえ」
「夜さんは黙ってて下さい」



私、これでも一応隊長なんですけど。
出来のいい副官を持つと辛いよ。



「そうか、特に何もないなら僕達はこれで……」
「ちょっと待った!私せっかく現世に来たのに観光してない!」
「何を言ってるんですか、まだ仕事が」
「帰ったらやるからさ、一護、現世の案内して!」



少し前まで現世に居たから今更案内も何もないんだけど、イヅルから逃げるために一護を無理矢理外に連れ出した。
少しくらい私も息抜きさせてよ。



「月闇さん、わかったから放せって」
「あーごめん。そうだ、一護何で真子のこと言わなかったの?」
「は?アイツのこと報告してねえのかよ……」



どうやら彼は私が既に尸魂界に報告していると思っていたようだ。
生憎、私は面倒事に首を突っ込むのは嫌いなもんで。
別に今更報告する必要もないと思ったし。



「何だ、じゃあいっか」
「いいのかよ」
「いいの。真子達はもう護廷の死神じゃないし」
「ったく、わけわかんねえよ」
「ねえ、喜助に聞いたんでしょ?私のこと」



一護は無言で頷いた。
彼ならきっと聞くと思った。
そして、喜助ならきっと本当のことを教えると思った。



「びっくりしたでしょ?こんな奴が仮にも護廷の隊長だなんて」
「そ、そんなこと思ってねえよ」
「気使わなくていいのに」
「そんなんじゃねえ!おれはただ……アンタはすげえなって思ったんだ」



一護はしっかりと私を見て言った。
何だろう、この子は本当に真っ直ぐだ。
真っ直ぐで純粋で、私なんか掠れてしまう程にキラキラと輝いている。
眩しすぎて、一護を見れなかった。



「詳しいことは俺も知らねえ。でも、イヅルさんはアンタのことを尊敬してると思う。イヅルさんだけじゃねえ、平子もきっとアンタのこと嫌いじゃねえと思う」
「何だよ、こんな餓鬼に励まされるなんて……」
「餓鬼ってなんだよ!?」
「餓鬼だから餓鬼っつてんの。でも……ありがと」



私の十分の一も生きていない一護にこんなこと言われるなんて思ってもみなかった。
彼があの事件で尸魂界を救ったというのも今なら納得できる。
そろそろイヅルが困り果ててるだろうと思い、私は一護に背を向けた。



「じゃ、そろそろ帰るわ。これあげる」
「ちょ……ってなんだよこれ?」
「オレンジ味の飴。アンタと同じ色だし」
「……サンキュ」



振り返るともう日が傾き始めていて、一護の髪の色と同化して見えた。
夕日の色であり太陽の色。
彼が今一度、私達の助けとなる日もそう遠くないのかもしれない。



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