異形の長



「三番隊の月闇ですけどー」



技局の玄関から来客を知らせる叫び声が聞こえたと思ったら、その後に懐かしい声がした。
そういえば、アイツ戻ってきたんだっけ。



「よお、久しぶりだな」
「……もしかして阿近?」
「ああ」
「嘘!何これ角?ってかアンタ背伸びたねえ」



一言目がそれか。
昔は見上げるようにして話していたアイツとも、今では目線はそう変わらない。
何十年かぶりに見たアイツはあの頃と何も変わってなくて、変わったといえば隊長羽織を着ているということくらいだろうか。



「隊長ならもうすぐ帰ってくると思うぜ。中で待ってろ」
「はーい」



中に入れて茶を出した。
俺も座って煙草に火を付けた。



「ん?阿近煙草吸うんだ」
「もう餓鬼じゃねえしな」
「それもそうか。じゃあ私も」
「夜もか?」
「現世生活が長かったもんで」



すっと葉巻を取り出して火を付ける夜の手を見ていた。
こんなに綺麗な手をしていたか、と思う。
隊長になり、いや昔もだが夜は強い。
普段は剣を握っているはずのその手は、ちゃんと女の手だった。



「どうした?」
「いや、夜の手って綺麗だな」
「は?何か変なもんでも食べた?」
「煩え、本当のことを言ったまでだ」
「うわー阿近をそんな気障な男に育てた覚えはありませーん」
「夜に育てられた覚えはねえよ」



外見だけでなく、どうやら中身も変わっていないらしい。
夜の副官なんざ、吉良も苦労するだろうなと思っていると、局長が戻って来た。



「マユリー頼んでたやつできた?」
「そんなものとっくの昔にできているヨ!」



局長が夜に投げつけたのは怪しげな丸薬。
わざわざ局長に頼む辺り、普通の薬じゃねえんだろう。



「夜、何だそれ」
「ただの滋養強壮剤だよ。イヅルにあげようと思って」
「それなら四番隊に行けばいいじゃねえか」
「四番隊にイヅルを連れていったら、今すぐ休ませろって言われるに決まってるじゃん。イヅルが素直に聞くとは思えないし」



だからって局長に頼むことはねえだろ。
絶対に余計なモン混ぜてるぞ、それ。



「阿近、どうしたのかネ?」
「いえ、何でもないです」
「あ、マユリこれお礼ね」
「仕方がないから受け取ってやるとするヨ」



夜が局長に渡したのは菓子折り。
夜のことだから、本当に菓子だけなんだろう。
こんな菓子一つで頼みを聞いてやるなんて、局長も夜のこと気に入ってんだな。



「じゃあありがとね、マユリ。阿近もじゃあね」
「待て、送ってく」
「別にいいよ、か弱い女の子じゃあるまいし」
「いいから」



いくらなんでもあの薬を飲まされる吉良が可哀そうだからな。
そう思って、夜を三番隊まで送ることにした。



「夜、その丸薬吉良に飲ませんな」
「何で?せっかくマユリが作ってくれたのに」
「局長の作ったモンだぞ?何が入ってるかわかりやしねえ」
「大丈夫だって、私が分解して調合しなおすんだから」
「は?」



コイツ今何つった?
自分で調合しなおすだと?



「夜、そんなことできんのかよ」
「できるよ。材料はマユリの使ってるモノがいいから頼んでるだけ。あ、マユリには内緒ね?」
「あ、ああ」



そういえば、先代の局長がコイツを技局に入れたがってたっけな。
コイツの作るものもそれはそれで怖い気もするが……局長よりはマシだろう。



「じゃ、送ってくれてありがと」
「かまわねえよ。今度飲みにでも行かねえか?」
「いいよ、じゃあ今日仕事終わったら三番隊に来てよ」



相変わらず行動の早い奴だ。
俺の返事なんか聞きもせずにさっさと消えちまいやがった。
仕方ねえ、今日はさっさと仕事終わらせるか。



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