目を覚ますと何か温かいものに包まれていた。 それが布団だとわかった時には、市丸さんの顔が目の前にあった。 『市丸さん!?』 「やっと目覚ました。堪忍な、勝手に連れてきてもうて」 彼の言葉に辺りを見回すと見慣れない部屋の中に居て。 恐らく市丸さんの部屋なんだと思う。 「びっくりしたわあ、突然気失うんやもん」 『すみません……』 「傷、痛む?」 『いえ、ほとんど……』 そこまで口にしてはっとした。 傷は結構深かったはずなのに痛まないということは、誰かが手当てをしてくれたということ。 そして、その誰かはこの状況なら市丸さんしかいない。 「心配せえへんでもええよ。ボクちょっと珍しい力持ってんねん。手翳すだけで簡単な治療ならできる」 『す、凄いですね……』 なんだか魔法みたいだと思ったけれど、不思議とそれを受け入れることができた。 それよりも、気を失う前に感じたあの違和感は何だったんだろう。 懐かしい、悲しい、それが市丸さんに関係あることのような気がしてならない。 『市丸さん、小さい頃とかに私にあったことありますか?』 「小さい頃?うーん、ずっと昔に会うたことならあるよ」 ずっと昔というのが引っかかる。 私には市丸さんに会った記憶はない。 生まれた時からずっと同じ街に居たから、小さい頃に仲がよかった友人というわけでもなさそうだし。 『昔?』 「せや、ずーっと昔。ゆりちゃんは覚えてへんやろね」 そう言っていつものように笑った市丸さんの顔はやっぱり悲しそうで、胸が痛くなった。 記憶にないけれど、私はこの人のことを知っている気がする。 小さかった頃も大きくなってからも、もっといろんな彼の顔を知っている気がする。 『頭、が……』 「大丈夫!?無理せんでええ!」 またさっきみたいに靄がかかって、次第に視界が霞んできた。 けれどもさっきと違ったのは、鮮明な光景が浮かんだこと。 市丸さんの笑顔、悲しそうな顔、怒った顔。 そして、泣き顔。 『ギン、私……』 襲ってくる痛みに耐えながら言葉を発する。 私は市丸さんのことを知っている。 いや、市丸さんじゃなくてギンのことを。 小さい頃からずっと一緒だった。 仕事をほったらかす彼を追い立てるのが私の仕事だった。 そう、あの時までは。 「ゆり、思い出したんか!?」 『ギン、行かないで……』 何百年か越しに言えた言葉。 大切な人に裏切られたあの日、言えなかった言葉。 それを口にしてしまったが最後、いろんな記憶と感情が一気に私の中に流れ込んできた。 → back |