知らされた現場へ向かうと、そこは多くの人が行き交う繁華街。 こんな場所で奴等を始末するのは少々骨が折れる。 久しぶりの任務ということもあって、いつもより気を引き締めて胸ポケットに手を滑らせる。 「お譲さん、駅へはどう行ったらいいか教えてくれませんかね?」 『あ、駅はそこの通りを真っ直ぐ行って……』 道を尋ねてきた御婆さんに駅までの道のりを教えていた時だった。 一瞬の鈍い痛みを感じたと思ったら、それはすぐに激痛へと変わった。 「どうも、御世話様デシタ」 『くそっ……』 目の前の御婆さんが醜い姿に変形していく。 どうして、目が反応するはずなのに。 ナイフを持つ手に力が入らない。 もう駄目かと思ったその時、ふわりと浮遊するような感覚。 「せやから言うたやろ?危ないて」 『市丸、さん』 「こないな奴相手に死によったら世話ないわ」 目の前の敵は市丸さんによって一瞬で消された。 人気のない場所まで抱きかかえられて移動し、公園のベンチに下ろされた。 『……ありがとうございます』 「別にかまわへんよ。それよりなして気付かんかったん?」 『目が反応しませんでした』 「故障やろか?おかしいなあ」 そう言って市丸さんは私の右目を覗き込む。 目の前に彼の顔があるとなんだか落ち着かなくて、目を逸らした。 「ボク嫌われとるみたいやね」 『別にそんなことありませんよ』 「せやったら目逸らさんでもええんと違う?」 『それは……』 気恥ずかしかったからだなんて言えるはずもなく。 まるで私が市丸さんのことを好きみたいじゃない。 好き?私が市丸さんのことを? 『ギン……?』 「ゆりちゃん、今ギンて言うた?」 はっとする市丸さんの顔が次第に霞んで見える。 やがて、私の視界は真黒になった。 「ゆり!」 普段はゆりちゃんと呼ぶ市丸さんが、ゆりと呼び捨てにしていたような気がしたけれど、頭に靄がかかったようで上手く働かない。 何故だかわからないけれど、酷く懐かしく、そして悲しいような気がした。 → back |