「ゆりサン、どうしちゃったんですか?浮かない顔して」
『どうしたもこうしたもないですよ……ったく』



喫茶店ギリアのカウンターに座り、コーヒーをちびちびと飲みながら浦原さんに愚痴を零す。
ここ数日の日課になってしまっているこの光景。



『あーもう何でこう面倒なことになるんですかねえ』
「市丸サン、ですか?」



あからさまに不機嫌な表情で頷く私。
ここ最近の悩みの種は、あの市丸ギンだ。
あの日、彼が私の部屋に来た時に置いて行った連絡先にメールをしたら、それから毎日のようにメールや電話が来る。
とは言っても内容はいつも同じで。



『彼氏でもないくせに……』
「それは困りましたねえ」



他人事のようにへらりと笑う浦原さんにですら怒りを覚える。
毎日毎日今日は無事だったかと聞かれるのだから、たまったもんじゃない。
面倒になって返信しないでいると、それから立て続けに留守電が入ってる始末。
これじゃあ彼氏を通り越して心配性の父親だ、父親。



「それにしてもあの市丸サンがそんなことするなんて、よっぽど気に入られてるんですねえ」
『嬉しくないですよ』



一護に相談したら、あの野郎お腹を抱えて笑いやがった。
ちなみに乱菊さんも全く同じ反応だった。
皆が口を揃えてあの市丸が……というのだ。



『どうせならもっと格好良くて優しい人が良かっ……』
「何?ボクの話してはんの?」
『げっ市丸さん』
「何やのその嫌なもん見るような目は」



だって、嫌なもんですから。
とは言えず、苦笑いで誤魔化す。
浦原さんに視線を流してみるも、いつものようにへらりと笑うだけで助けてくれる様子はない。



「ボクもコーヒーちょうだい」
「はい」
「で、ゆりちゃん決心はついた?」
『決心もなにも、私は市丸さんの部下になる気はありませんって何度言ったらわかるんですか』
「まだ押しが弱いんかなあ。ま、ボクは諦めるつもりなんかあらへんのやけどね」



ククッと笑う彼の顔を見ていたら、なんだか無性に腹が立ってきた。
バンっとテーブルに手をついて立ちあがると、市丸さんを睨みつけた。



『何度言われようと私は学生なんです、学校に残るんです!だから市丸さんの部下にはなれません!』



そのまま荷物を持って外に出た。
ちょっときつく言い過ぎたかなとは思ったけど、あのくらい言わないと一生つきまとわれそうな気がする。
本当はギリアになんんか入らないで平和な暮らしを送っていたかったのに。
私は一護みたいにこの世界に入って良かっただなんて思えるほど正義感は強くないんだ。


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