“深く関わるな” そんなことを言われれば、余計に気になるというのが人間の性。 私はその足でギリアへと向かった。 『こんにちはー』 「ゆりサン、いらっしゃい」 笑顔で迎えてくれた浦原さん。 一護が心配するような人じゃないと思うんだけど。 「あら、見たことない顔ねえ」 昨日と違ったのは、他にお客さんがいたこと。 その人はまさに綺麗なお姉さんという言葉の似合う人だった。 「私は松本乱菊、よろしくね」 『霜月ゆりです』 この店は常連客ばかりなのだろうか。 何の躊躇いもなく私に名乗った松本さんは、私にカウンターの隣の席に座るように言った。 「今日は何にしますか?」 『ブレンドコーヒーで』 はい、と昨日と同じように笑顔で答えた浦原さんは、豆を挽きだした。 隣に座る松本さんは、なんだか楽しそうな表情で私を見ている。 「ねえ、ゆりって呼んでいい?私のことは乱菊でいいから」 『はい、じゃあ乱菊さんで』 しばらくして出されたコーヒーを飲みながら、浦原さんに一護のことを尋ねてみた。 浦原さんは少し驚いた表情をしながらも、一護もここの客だと教えてくれた。 「それにしてもびっくりね。ゆりと一護が知り合いだなんて」 ここの常連だということは、乱菊さんとも知り合いなのだろう。 不思議な偶然もあるものだな、としみじみ思った。 すると、カランという音がしてまた一人、お客さんが入って来た。 「いらっしゃい、阿散井サン。こんな早い時間に来るなんて珍しいっスね」 「そうなんスよ。今日は朝から隊長に呼びつけられちゃって」 阿散井さんと呼ばれた男の人は、私との間に一つ席を空けて座った。 真っ赤な髪の毛は目立つだろうな、なんて初対面なのに失礼なことを思う。 「お前見ない顔だな。新入りか?」 『初めまして、霜月ゆりといいます』 新入り、というのはこの店の新規客ということなのだろうか。 さっき言っていた隊長というのも気にかかる。 「違いますよ。ゆりサンはお客さんっス」 「そうか、悪いな変なこと聞いちまって。俺は阿散井恋次だ」 ますます混乱する。 でも考えたところで答えが出るものでもないだろうと思い、深く考えるのはやめることにした。 この時の私はまだ知らなかった。 平和だと思っていたこの街の裏側を。 いや、この街だけではない。 この世界の裏側を。 ← back |