ゆりちゃんに連絡せえへんようになってしばらく経つ。 初めからわかっとったことやのに。 彼女にとってボクは他人。 「隊長、どうなされたのですか?」 「なんでもあらへんよ、ちょっと疲れとるだけや」 疲れとる、やなんて嘘や。 最近まともに仕事もしてへんし。 「イヅル、ちょっと出てくるわ」 「連絡はつくようにしておいて下さいね」 「わかっとる」 逃げるように本部を出た。 なして皆覚えてへんのや。 なしてボクだけが覚えとるんや。 こないな思いするんやったら、いっそのことボクも忘れたい。 「ゆり……」 遠い昔の呼び名を口に出してみたところで、返事を返してくれる人なんかおらん。 やっと会えたと思ったのに、あの子も皆と一緒で何も知らんかった。 人違いやったらどんなによかったか。 「ああもう煩いわ」 頭の中で警報が鳴り響く。 ズキズキと疼く右目にはどんだけ経っても慣れへん。 こないなもん着けんでもボクにはアイツらの気配がわかるいうのに。 「なして此処に居るかなあ」 視線の先にはたった今頭の中に居った子が。 ゆりかて気配でわかっとったはずやのに、それができへんから今こうして敵に殺されそうになっとる。 『市丸、さん』 「こないな奴相手に死によったら世話ないわ」 咄嗟にゆりを抱えて、ナイフを敵に突きつけた。 αはどうも使い勝手が悪い。 長物を持ち歩くわけにもいかへんで、仕方なくナイフっちゅうわけや。 人の少ない公園のベンチにゆりを降ろす。 目が反応せえへん言われても、ボクにはどうしようもないんや。 せやかて涅さんのところに連れて行くんも嫌やしな。 『ギン……?』 ゆりの目を覗きこんだら目を逸らされた。 当たり前やな、ボクは他人なんやから。 でも、ふいにゆりがボクの名前を口にした。 躊躇いがちに、疑問形で紡がれたボクの名は酷く悲しいもののように聞こえた。 「ゆり!」 ぐったりとするゆりを抱きかかえると、あの日の記憶が鮮明に蘇った。 ← back |