私のことを知っている? 一体どういう意味なのか、正直言ってわからなかった。 それに、昔からっていつからなんだろう。 あの日、私が道端で彼に遭ったのが初めてなんじゃなかったんだろうか。 「俺もよくわかんねえんだけどさ、この前乱菊さんがちらっと話してたんだ」 『乱菊さんと市丸さんって、昔馴染みなんだよね?』 いつだったか、乱菊さんに話を聞いたことがある。 二人はいわば幼馴染のようなものだ、と。 「俺も詳しくは知らねえよ。乱菊さんも、市丸さんがそんなことを言ってたとしか言わなかったし」 『そっか……乱菊さんに今度聞いてみるよ』 今日は学校行かないの?と一護に尋ねれば、今日は休みたい気分なんだと返ってきた。 そうか、彼もまた学校を卒業してもギリアに入ることはないんだ。 『何だろうね、あんな組織に入らなかったらよかったのかも』 「俺もそう思ったことがある。でもな、あのまま何も知らずにのうのうと生きるよりはよかったんじゃねえかなって今は思ってる」 この時に一護の顔は、何か決意を秘めていた。 いつだってそうだ。 何か大事な決断をした時の彼は、自信に充ち溢れていた。 私にはそれが少し羨ましかった。 『一護は強いよね』 「ゆりだってすげえだろ、ジャックなんて呼ばれてよ」 『別に嬉しくないし、ってかそういう意味じゃなくて』 わけわかんねえよ、と早々に意味を考えることを放棄した一護は、ベッドに寝転がった。 だから、そこは私のベッドだっての。 「酒でも飲むか」 『最初からそのつもりだった癖に』 急いでいる、と部屋に入ってきた時に言っていたような気がしたのは聞き間違いだったのかと思いつつ、二人分のビールを取りにキッチンに向かった。 その間の一護は、天井をただじっと見つめていた。 「サンキュ」 『どういたしまして』 プシュっという軽快な音と共に、私たちは缶を合わせた。 何で市丸さんはあんなことを私に言ったんだろう。 その答えは考えてもわかるはずもなく、私もまたその意味を考えることを放棄した。 ← back |