『いつ来ても無駄に高い建物だねー』
「無駄に、は余計だ。今日は総隊長殿に謁見するのだから、口には気を付けるんだぞ」
『はーい』



生ぬるい返事を返して、私達はその無駄に高い建物の中へと入って行った。
エレベーターに乗り、向かう先は最上階。
扉の先には黒いスーツに身を包んだ集団が待ち構えていた。



「良く来たな、霜月ゆり。お主を本日よりギリアの正式な一員として迎え入れよう」



この人がルキアの言っていた総隊長だろうか。
和服に身を包み、いかにもボスといった風体だ。



『よろしくお願いします、総隊長』



片膝をついて頭を下げる。
やがて顔を上げれば、総隊長の温和な笑みが目に入った。



「そう畏まらずともよい。お主は黒崎一護と同じ、特別隊の一員とする」
『特別隊、ですか……』
「異論はあるか?」
『いえ、喜んでお引き受けいたします』



特別隊とは、一護や私のように本職が別にある者が所属する隊。
とはいっても、現在の隊員は一護とそして私だけ。



「そうか、これからよろしく頼んだぞ。そうじゃ、お主にもこれを渡しておかねばな」



そう言って総隊長が差し出したのはピストル、通称α。
幹部以外の者は携帯許可が出た時にのみ渡されるが、いわば非常勤の特別隊は常にこれを携帯することを許されている。



『ありがとうございます。この霜月ゆり、ご期待に沿う活躍をすることを誓います』



それから半年、私はギリアの一員として職務をこなしてきた。
特別隊に回されるのは主に幹部クラスの仕事だ。
初めこそ一護の手を借りていたものの、今では一人で動くことが多くなった。



「仕事には慣れましたか、ゆりサンいや……ジャック」
『その呼び方はやめて下さいよ。なんだか殺人鬼にでもなった気分』



通常、ギリアのメンバーは武器としてピストルを使う。
けれども私はピストルを持ってはいるものの、主に使うのは短剣。
それゆえにジャックザリッパ―、略してジャックと呼ばれることが多くなった。



「いいじゃないっスか、それだけ腕を上げてるってことですよ」
『殺しの腕を上げたところでねえ……』



正直に言うと複雑な気分だった。
普段は普通の大学院生としてきちんと学校に通っているし、やりたかった研究だって進めている。
それでも、一度連絡が入れば切り裂きジャックとして任務に行かなければならない。
唯一の救いは仕事によって普通のサラリーマン以上の収入を得ていることだろうか。



「今日はお仕事入りそうにないですね」
『今日も、でしょ』



ところが、最近めっきり仕事の連絡が来なくなった。
他のメンバーに聞いてみても皆が口をそろえて同じことを言う。



『平和、になったんならいいんでしょうけどね』



そんな簡単にはいかないと言う浦原さんは、何か考え事をしているようだった。


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