笑顔なのに威圧感のある市丸さんに連れられて、私はオープンテラスのお洒落なカフェに来た。
周りを見れば楽しそうに話す女の子達。
彼女達は浦原さんの言葉を借りるならば、表の人間なのだろう。
私もそうだったはずなのに、この二日間でどうやら完全な表の人間というわけにはいかなくなったようだ。



「で、キミは何者?」



店員さんが運んできたコーヒーを手に、市丸さんはやっと口を開いた。
何者と聞かれても、私は一つの答えしか持っていない。



『ただの大学生です』
「ほんまに?嘘ついてもええことないよ」



そう言って市丸さんは右手をすっとジャケットの胸ポケットに滑らせる。
いつでもそこにあるものを取り出せるとでもいわんばかりに。



『本当ですってば。浦原さんと知り合ったのも昨日のことですし……』
「ほんならなして乱菊と日番谷くんのこと知っとったん?ボクが名前出した時顔色変わったやろ」
『それは今日……ついさっき会ったからです。浦原さんのお店で』



ささいな表情の変化でさえも、この人は見逃さなかったらしい。
でも、私にはやましいことなんて何一つない。
ただ巻き込まれてしまっただけの一般人だ。



『あの……市丸さん達の所属している組織って、ギリアっていうんですか?』



さっき私を捕えていた男の言っていた言葉が頭から離れなかった。
ギリア。
浦原さんのお店と同じ名前だ。



「どうやら浦原さんからいろいろ聞いたみたいやね。そうや、ボクらはギリアの一員、もちろんキミもね」
『……は?』



目の前の男は今何と言っただろうか。
何度も言うが、私はただの大学生。
巻き込まれただけの可哀そうな一般人だ。



「なんて顔しとんの。ボクらの組織のことはトップシークレット、世間に知られてはならん存在や。そんな組織のことを知ってしまったモンはその組織に入るか死ぬかの2択やろ?」
『浦原さんはそんなこと一言も言ってませんでしたよ』
「あの人は例外。元々組織の一員なようでそうでない人や」



にこにこと笑顔を浮かべながらする話ではないと思う。
そんな2択なんて嫌だ。
デッドオアアライブならぬデッドオアデッドだ。
私に選択権なんて端からないようなものではないか。



「さ、どうする?」



二度も聞かれずとも答えなんて決まっている。
誰だって自分の命は惜しいもの。



『死ぬのは嫌、です』



こうして私はギリアという不可思議な組織の一員となった。


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