店を出たもののなんだか真っ直ぐ帰る気になれなくて、街の中を特にあてもなくうろついていた。
高く聳え立つビル、忙しなく歩く人、何もかもがいつも通りだった。



『痛っ、どこに目付けて歩いてんのよ』



前方から走って来た人がぶつかってきた。
どうやら今日はついていないらしい。
そう思っていたら、同じ方向からまた人が走ってきた。



「お姉さん、しゃがんどいてや!」
『え……』



何が何だかわからないままに、言われた通りにその場にしゃがみこむ。
すると、パアンという音と共に、頭の上を何かが通り抜けていった。
そう、何かが。



「びっくりさせてもうてごめんね。ほら、立ってや」



自分が今目にしたものが信じられずにその場にしゃがんだままの私。
そんな私にさっきの男の人が手を差し伸べた。



「隊長、さっきの男は?」
「ああ。アイツなら傷を負ったまま逃げとる。あっちは日番谷隊長が待機しとるさかい大丈夫やろ」
「そうですか、松本さんも居ますしね」
「せやな。乱菊も居れば逃げられへんやろ」



立ちあがった私の前で交わされている会話に出てくるのは、さっき店で会った人の名前。
この男達も浦原さんの言ってた組織の一員なのだろうか。
その時だった。



『何!?』



いきなり腕を引っ張られて、気づいた時にはこめかみにピストルが突きつけられていた。



「君、大丈夫かい!?」
『大丈夫…じゃないみたいですね……』
「さっきの奴の仲間やろか。あかん、油断しとった」



本当に今日はついていない。
今日、いや人生で三回目に目にしたピストルは自らの頭に突きつけられているなんて。
さっきの男の人達をみれば、銀髪の人と目が合った。



「お前ら、ギリアだろ。この女を殺されたくなかったら大人しく武器を捨てろ」
「ボクらは確かにギリアの一員や。せやかてそのお姉さんを助ける義理もないやけどなあ」
「そんなこと言ってていいのか?今すぐにでもこの女を殺せるんだぞ」
「やれるもんならやってみいや。けど、その前にキミが死ぬことになるやろうけどなあ」



それと同時に私は自分を捕まえていた男の鳩尾に肘を入れた。
捉える手が緩んだ隙に男の手にあったピストルを奪った。
今度は私が男にピストルを突き付ける番だった。



「お姉さん、そんくらいにしとき。後はボク達の仕事や。イヅル、コイツ連れて行って」
「はい」



イヅルと呼ばれた金髪の青年は、さっきの男を連れてどこかへ向かった。
そして、銀髪の人は私をじろじろと見ている。



「キミ、素人?」
『素人…まあそうです』
「それにしてはボクの言いたかったことわかっとったみたいやし、動きもいいしなあ」
『昔、少しだけ護身術みたいなものを習っていましたから』
「ふうん、まあええか。ボクは市丸ギンや」
『霜月ゆりです』
「危ない目に会わんこと気を付けな」



そう言って私に背を向けた市丸さんを、私は呼びとめた。



『あの!市丸さんも浦原さんと同じなんですか!?』
「浦原さん?なんやキミ、あの人の知り合いなんやね。それなら話は別や」



ニヤリと笑った市丸さんは再び私のほうへと歩いて来た。


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