入隊して一カ月、漸く仕事にも慣れてきた。
とはいっても新入隊士に任せられるのはいわゆる雑用ばかりで、それが楽しいといえば嘘になる。



「霜月、これに隊長の判をもらってきてくれ」
『はい!』



上司から渡されたのは一枚の紙。
隊長印のいるようなものだから、大事な書類なんだろう。
言われた通りに隊長室に向かえば、中から怒鳴り声が聞こえてきた。



『霜月です、失礼します……』



恐る恐る扉を開けると、顔を真っ赤にして怒鳴っている隊長と、その隣で苦笑いをしている副隊長。
そして、怒られているのはギンだ。



「隊長、ゆり君が来ましたよ」
「お、ちょうどええところに来よったな。お前からもコイツに言ってくれや、仕事せえってな」
『え……』



まさかギンは仕事をしてなかったことで隊長から怒られていたんだろうか。
というか三席が仕事しないって、この隊は大丈夫なのかというのが本音。



「サボっとったんと違いますって。ボクはただ瀞霊廷の見廻りをしとっただけです」
「何阿呆なこと抜かしよるんじゃボケ!お前の仕事は副官補佐やって言うとるやろうが」
「そないなこと言いましても、藍染副隊長が優秀すぎてボクのやることなんか一個もあらしませんのや」
「何かあるやろうが!暇やったら隊士に稽古付けるとかせえや」
「そやかてボクが勝手に稽古して隊士が怪我したら隊長に迷惑かけますやろ?」



隊長とギンの掛け合いはまるで漫才のようだ。
こんなやり取りを毎日のように聞かされているのかと思うと、副隊長が哀れに思えてくる。



「隊長、今日はそのくらいにしておきましょう。そうだ、ギンに見張りでも付けたらいかがですか?僕がずっと見張れればいいのですが、生憎そこまで手は回りませんし」
「そうか、その手があったか。ちょうどええ、ゆり、お前は今日からコイツの見張りせえ」
『私ですか?』



思わず間抜けな声が出た。
三席の見張りを平隊士がするって、なんだかいろいろとおかしい気がするんだけど。



「そうですね、ゆり君ならギンも逃げ出せないでしょうし」
「ちょっと待ってや副隊長。ゆりが見張りやったらボクすぐに逃げ出せますよ?」
「お前が逃げたら怒られるのはゆりや。可哀そうやなあ、不甲斐ない三席のために怒られるやなんて」



隊長は大げさに哀れんだような表情を私に向ける。
私の知らないところで勝手に話が進んでしまっている気がする。



「せやかてゆりにも仕事が…」
「かまへん、これは隊長命令や。ゆり、やってくれるな?」
『……はい。不本意ですが』



隊長命令と言われれば、私に断る権利はない。
にんまりと笑う平子隊長に、一瞬だけ殺意を覚えたのはここだけの話。


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