そして翌日、寝る間も惜しんで瀞霊廷の警備にあたっていた私達の頭上から何かが降ってきた。
黒崎達、旅禍だった。



「雛森君、皆を下がらせてくれ!」
「はい!」



指示を飛ばす藍染隊長の隣で空を見上げれば、降ってくる霊圧は六つ。
内一つは黒崎で、もう一つは恐らく先代の二番隊隊長のものだ。
いよいよ戦いの幕が上がったのかと彼ら旅禍達の無事を祈った。



『藍染隊長、旅禍を探してきます』
「そうだね、こんな事態だから研修のことは忘れて我々に協力してくれ」
『はい』



協力、ねえ……
生憎私が協力するのは護廷でも藍染隊長達でもなく旅禍だ。
藍染隊長に背を向けると、瞬歩で目的の霊圧を追った。



『えっと、十一番隊三席斑目一角か』



脳内に記憶している席官の中から目の前の男の名をはじき出す。
卍解ができるらしいこの男に、果たして黒崎は勝てるのか。
そんな心配を他所に、黒崎は彼に勝ってしまった。



『黒崎』
「ゆりさん!俺……」
『とりあえず止血したほうがいいよ。ルキアちゃんの居場所は斑目に聞いたら教えてもらえると思うよ。それから、あんまり目立つ行動をしないようにね』



仮にも旅禍なんだから、と言い残して私は黒崎の元を去った。
そして向かうは今回の騒動の渦中にあるルキアちゃんの兄、朽木君の元。
六番隊舎に行けば、彼はいつもと変わらない様子で机に向かっていた。



『朽木君、ルキアちゃんのこと心配じゃないの?』
「心配、か。私は掟に背くつもりはない」
『じゃあ緋真さんとの約束は……』
「ゆり、私は六番隊隊長だ。身内が霊法を犯したのならば、それ相応の罪に処せられるべきだ」
『そっか、わかったよ』



もしかしたら彼なら協力してくれるかもしれない。
そんな考えはどうやら浅はかだったようだ。
静かに六番隊を後にすると、会いたくない人物に出くわした。



「ゆり、六番隊長さんに用でもあったん?」
『ちょっとね』
「さよか。せっかくこっちに戻って来たんにゆっくり話す暇もないなんて残念やわあ。騒動が一段落したら食事にでも行こな」
『うん、楽しみにしてる』



そんな日は恐らく来ない。
この騒動が終わる頃にはギンは処罰されているか、もしくは……
考えたくなかったけれど、もう二度と昔のようにギンと二人で食事することも、乱菊と三人で馬鹿騒ぎをすることもないんだ。



「せや、あんまり藍染隊長に近づかんほうがええよ」
『何言ってんの。一応私は藍染隊長の元で研修してるんだよ?』
「一応、やろ?」



ギンの放った言葉の違和感に気づいた時には、目の前の彼は悲しそうな顔をしていた。
きっと彼は、いや彼等は私が何故戻って来たのかを知っている。



「ボクがゆりの嘘を見抜けんとでも思うた?悪いことは言わへんさかい、あの人には近づかんといて。これはボクのお願いや」



悲しそうな笑みを残して、ギンは私に背を向けた。
ギンの背中は昔と違って大きくて寂しくて。
本当に私の手の届かないところに行ってしまったような気がした。


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