真兄が居なくなってしばらくすると、藍染副隊長が五番隊の隊長となった。
そして、ギンは副隊長へと昇格した。



『ギン、副隊長就任おめでとう』
「おおきに、なんや照れるなあ」



他の隊も顔ぶれががらりと変わり、昔の、真兄達が居た頃の護廷じゃないことを嫌でも思い知らされた。
そんなある日のこと、非番の日に瀞霊廷内を散歩していると朽木君に出会った。



『朽木君……いや、朽木副隊長お久しぶりです』
「ゆりか。久しく会っていなかったな。そなたの父上と母上が心配しておったようだが」



私とほとんど歳の変わらない彼は、次期隊長候補として順調に出世している。
貴族同士ということもあって、私の実家とも交流があるのだ。



『あの人達が心配してるのは私じゃないよ。今頃妹の嫁ぎ先でも探してるんじゃないかな。そうだ、結婚するんだって?おめでとう』
「ああ」



両親とは名ばかりのあの人達は、一度だって私のことを見てくれたことはなかった。
あの人達の目に映るのはいつだって家のことだけで、私は所詮駒にすぎないのだ。
朽木君が結婚するという話は噂で聞いていた。
何でも奥方様は流魂街出身だそうで、四大貴族である彼の家がそう簡単に許してくれたわけではないのだろう。



『朽木君って凄いよね』
「何がだ」
『だって、逃げてないから。ほら、私は貴族が嫌で逃げ出しちゃったからさ』
「そんなことは……」



言葉に詰まる朽木君。
徐々に重くなる空気を振り払うかのように、言葉を発した。



『そうだ、今度奥さんに会わせてよ!朽木君の昔の話いっぱいしてあげなきゃ』
「……考えておく」



考えておく、なんて言っておきながら、その時はすぐにやってきた。
仕事が終わってひと段落していると、五番隊に朽木君がやってきたのだ。



「朽木さん、どないしましたの?」
「ゆりは居るか」
「ゆりならもう戻ってくると思いますよ」



ほら、と執務室に入るなり朽木君と目が合った。
あまりにも意外な訪問者だったから、持っていたお茶を危うく零すところだった。



『朽木君、どうしたの?』
「今から来い。会わせたい者がいる」
『もしかして奥さん?』
「ああ」
「なんやの、今からゆりと仲睦まじくお茶を楽しむところやったのに」



ギンが不服そうな顔をしているけれど、今はそれより朽木君の奥さんが見たい。
二人分淹れてきたお茶の一方は藍染隊長にでも持っていくことにして、私はすぐに準備を始めた。



「緋真と申します」
『はじめまして、霜月ゆりです』



久しぶりにやってきた朽木君の家は、相変わらず立派だった。
彼の私室に通されると、すぐに奥さんの緋真さんがやってきた。



『朽木君もなかなかやるねーこんな綺麗な奥さんもらっちゃうなんて』
「いえ、そんな……」
「ゆり、緋真をからかうな」
『からかってるんじゃないって。本当に綺麗なんだもん』



それから昔の朽木君の話をしたり、死神の仕事の話をしたりした。
緋真さんはとても綺麗に笑う人で、その隣にいる朽木君もいつもより表情が柔らかかったように思う。
緋真さんが実は身体が弱いのだということを聞いたのは、それから数日後。
長くは生きられないかもしれない、とも。


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