「ゆり!ゆり!」



翌朝、玄関のドアを叩く音で目が覚めた。
時間を確認すれば、起きるにはまだ早い時間。
一体誰だろうと眠い目をこすりながら扉を開ければ、今にも泣きそうな顔をした乱菊がいた。



『乱菊、こんな朝早くに……』
「隊長が…平子隊長が……」



珍しく慌てた乱菊の様子、彼女の口から出た名前に私は真兄に何かあったのだとすぐに気付いた。
彼女を部屋の中へ入れると、一つ深呼吸をして話し始めた。



「ゆり、ちゃんと聞いてね」
『だから、何があったの?』
「平子隊長が……居なくなったの」



言葉も出なかった。
昨日あんな会話をした後だったから、余計にそれが嘘だなんて思えなかった。
乱菊の話によると、最近噂されていた流魂街で人が消えるという事件の調査に出ていた九番隊の隊長以下の霊圧が消失し、その応援に向かった真兄達は虚と化した。
そして、虚として処分されようとしていたのを浦原隊長と四楓院隊長がどこかへ連れて逃げた、と。



『嘘……』



嘘だと思いたかった。
これは何かの悪い夢だ。
真兄が居なくなるなんてありえない。
そして、昨日真兄に言われた言葉が蘇る。



惣右介には気を付けろ。もし俺に何かあったら、九割方アイツの所為や思うてええで。
何で副隊長が?
ええから、これだけは心に留めておくんやぞ。



それからは乱菊の言葉なんて耳に入らなくて、私は急いで着替えると隊舎へと向かった。
もしかしたら何かの間違いかもしれない。
隊首室に入れば、いつものように真兄が笑顔で迎えてくれるかもしれない。
何や、血相変えてって、笑ってくれるかもしれない。
また、頭をくしゃってされるかもしれない。



『真兄!』



大きな音を立てて隊首室の扉を開けば、そこに居たのは副隊長とギンだった。
二人とも、私の顔を見るなり目を逸らしてしまった。



『副隊長!真兄は……隊長はどこですか!?』
「ゆり君、落ち着くんだ」
『真兄は?真兄はどこに!?』
「ゆり!」



何も考えられない私を止めようとしたのか、ふわりと温かいものに包まれた。
顔を上げれば、いつものようにでも少し悲しそうに笑う副隊長の顔があった。



「ゆり君、平子隊長はもう居ないんだ。君も聞いたんだろう?」
『嘘……ですよね……』
「嘘だったらどれだけいいか。でもこれは本当なんだ、平子隊長はもう居ない」



涙が溢れて止まらない。
本当は……本当は真兄が居なくなっても大丈夫なんかじゃないのに。
私は大人なんかじゃなくてまだまだ子供で、真兄が傍に居てくれないとダメなのに。
家族なのに。
やっと見つけた本物の家族なのに。

それから私は涙が枯れるまで泣き続けた。
その間、副隊長とギンはずっと私の傍に居てくれたんだ。


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