私が隊長の部屋に来て一年が経った。 何の変哲もなく過ぎていく毎日はまるで夢みたいで、もしこれが夢ならずっと覚めないでほしいと何度も願った。 『真兄、早く起きないとまた副隊長に怒られるよ!』 「後ちょっと寝かせてや……」 『何言ってんの、私だって怒られるんだから早く起きて!』 これも最早日常の光景。 仕事中は五番隊隊長として多くの隊士を抱える真兄だけど、それ以外はどうしようもなくだらしがない。 朝だって苦手みたいだから、こうして私が毎日起こしている始末だ。 『どうしても起きないっていうんなら、副隊長呼んでくるからね』 「待て、それだけは勘弁してや!」 ばっと飛び起きた隊長は急いで支度を始めた。 これじゃあどっちが隊長かわからない。 『朝ごはんもできてるから』 「ありがとな、先行っててもええで」 『いいよ。まだ時間あるから』 美味しそうに私が作ったご飯を食べてくれる隊長を見る。 一年も経てば自然と打ち解けるもので、今ではすっかり家族同然だ。 『真兄、今日私ご飯食べて帰るから』 「誰とや?」 『ギンと乱菊』 そして、隊長はものすごく過保護。 前にギンが言ってたけど、本当に父親みたいだ。 「あまし遅くならんようにな」 『はーい』 二人で隊舎に向かえば、隊長である真兄に皆が頭を下げる。 初めはなんだか居心地が悪かったけれど、今ではすっかり慣れてしまった。 途中で別れて、私はギンの元へ向かう。 最近席官に昇格したけれど、私の仕事はといえば変わらずギンの補佐という名の見張りだ。 『ギン、おはよ』 「おはよ」 短く挨拶を交わした後、早速業務に取りかかる。 今日はいつもより書類が多いみたいだ。 『ねえギン、最近変な噂があるって知ってる?』 「噂?」 『流魂街でね、人が消えるんだって』 最近街で聞いた噂。 真兄も気になっていたみたいだった。 流魂街で人が消えているらしい。 衣服だけ残して、跡形もなく。 「ふうん、物騒やね」 『何も起こらなかったらいいけど……』 ふと、ギンの顔が曇った気がした。 それでも私は気に留めることもなく、仕事に取りかかった。 もしこの時私が彼の変化に気づけていたなら、あんなことにはならなかったかも知れないのに。 → back |