私の部屋は実に殺風景なものだった。 実家を飛び出した時は身一つだったし、これといって趣味があるわけでもない。 必要最低限の衣類と日用品だけを手にして、私は隊長の部屋へと生活の場を移した。 「ゆり、今日から此処がお前の家や。門限は十時、破ったら次の日一日家事当番や」 にっと歯を見せて笑う隊長が、一体どうして私を此処に住まわせる気になったのか私にはわからない。 それでも、此処が家だと言われれば悪い気もしなかった。 『わかりました』 「それから、家に居る時は隊長言うんも敬語もなしや。家に帰ってまで仕事しとる気分になるのは嫌やからな」 『それは……』 「ええから、昔みたいに呼んどったらええ。他の奴らには親戚ってことにしとくさかい」 昔みたいにと言われても、あの時の隊長は父様の友人で今は上司だ。 一体どうしたものかと考えあぐねていると、頭をこつんと叩かれた。 「返事は?」 『……わかりました』 「ちゃう!」 『……わかったよ、真兄』 よくできましたとでも言わんばかりに頭をくしゃくしゃにされた。 久しぶりの呼び名になんだか気恥かしい気持ちになる。 「お前の部屋は此処や。俺の部屋はこっちやさかい、何かあったらいつでも来いや」 『は……うん』 少ない荷物を片付け終わり、私達は居間でお茶を飲んでいた。 死霸装も隊長羽織も来ていない隊長は、なんだか別人に見える。 「はあーやっとすっきりしたわ」 『何が?』 「ゆりに隊長言われんのも敬語使われんのもむず痒くてしゃあなかったんや」 私とて最初は戸惑った。 今まで優しいお兄ちゃんという認識だった人が、急に上司になって、五番隊に配属が決まった時から何度となく平子隊長、と唱えていたものだった。 「それにお前、昔っから寂しがり屋やったやろ?そないな奴が一人で部屋に居るやなんて気が気じゃないわ」 『……ありがとう』 「礼なんかいらんわボケ。餓鬼は餓鬼らしく大人の世話になっとけ」 これでもう一人の部屋に帰らなくてすむ。 ずっと憧れていた家族に似たようなものができたのかもしれないと思うと、不思議と心が温かくなる気がした。 → back |