『ただいまー』



真っ暗な部屋に明かりを付ける時、私の一番嫌いな瞬間だ。
ここには自分ひとりなのだ、と嫌でも認識させられる。



『明日は非番なのにな……』



ぽつりと呟いてみても、返事をくれる人なんていない。
死神として働いているとはいえ、私はまだまだ世間一般から見れば子供だ。
流魂街や瀞霊廷の街にいる子たちのように遊びたい、もっと甘えたいといくら願ったところでそれが叶うはずもない。
そんなこと当の昔にわかっていたはずなのに。

余計な雑念を振り払うかのように支度をし、早々に眠りについた。
幸せな夢を見た気がした。
父様がいて母様がいて兄様がいて、皆が笑っていた。
そんなことが一度でもあっただろうか。
その輪の中心に居る私は本当に私なのだろうか。
目が覚めると枕は少し、濡れていた。



「ゆり、目覚めたか?」



漂ってくる香りと聞き覚えのある声に辺りを見回す。
目に入ったのはそこに居るはずのない人だった。



『隊長、どうして此処に!?』
「お前がいくら呼んでも返事せえへんからや。もう昼やぞ」



慌てて時間を確認すれば、もう昼食時だった。
慌てて支度をしようとして、今日が非番だったことを思い出す。



「何やお前、寝ながら泣いとったんか?」
『泣いてません!隊長こそ此処で何してるんですか!?』
「なあゆり、お前俺の部屋で暮らす気ないか?」



唐突に放たれた言葉に、何で隊長が此処にいるのかとか、寝ながら泣いていたところを見られた、なんてことは一気に頭から消えていった。
隊長と一緒に暮らす?
なんで私が?
そんな疑問が頭の中をぐるぐると駆け巡った。



「霊術院と違うて此処はほんまの一人部屋や。俺かてそら心配にもなるわ」
『いえっでも……』
「そないに俺のことが嫌いやっちゅうんなら仕方ないけどな、そうやないなら俺んとこに来い。これは隊長命令や」



随分と横暴な上司だと思った。
でも、もしかしたら本当にこの人は私のことをちゃんと見ていてくれていたのかもしれない。
昔からそうだったように。
その時の私にはこの提案を受け入れる以外の選択肢なんて見つからなかった。


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