ギンの監視、とは言われても特にやることなんてない。
ただ仕事をしている彼をじっと見ているだけだ。
当のギンはといえば、何の問題もなく仕事をこなしている。



『お茶どうぞ』
「おおきに。そこに置いとってや」



こんな調子だから私はただのお茶汲みと化している。
そんな私の様子を見て、他の隊員達は哀れに思っているみたい。
せっかく護廷に入ったのに、まともに仕事もさせてもらえないなんてって。



「よし、今日の仕事は終わりや。行くで」
『うん!』



でもそんなのは気にしていなかった。
こう言うのもなんだけど、私は結構恵まれていると思う。



「あかん、もっと相手の動きを見な」
『はい』



おやつ時を少し過ぎた頃、私たちは隊舎内の稽古場に居た。
私が彼の監視役となってからというもの、こうやって毎日のように稽古に付き合ってもらっている。
正直に言うと、まだ身体の小さい私では他の先輩達に稽古してもらっても体格差もあってあまり為にならないのだ。
その点、私とそう変わらない体格のギンが相手だとやりやすい。



「そろそろ終いにしよか。終業時間やし」
『ありがとうございました』



三席直々に稽古をつけてもらえるなんて、破格の待遇だと思う。
もしかしたら平子隊長はこうなることを予測して私にギンの見張りを言いつけたのかな、なんて思う。
でも、藍染副隊長ならいざ知らず、あの隊長がそこまで考えているとは思えないけど。



「今日はどないするん?」
『ごめん、今日は隊長に呼ばれてるんだ』
「さよか。ほんならまた明日な」
『うん、お疲れ様』



いつもなら稽古が終わった後に夕食を食べに行くんだけど、この日は隊長に呼ばれていたので断ざるを得なかった。
乱菊でも誘うといいよ、と言い残して私は隊首室へと向かった。



『霜月です、入ります』
「ゆりか。市丸の仕事は終わったんか?」
『はい、早く終わったので稽古をつけてもらっていました』



隊長は満足気に笑っていた。
もしかしたらこの人は私が思っている以上に思慮深い人なのかもしれない。



「ちょっと待っとってな。すぐに終わるさかい」



隊長の言葉通り、すぐに私達は食事に向かうことになった。
隊長は昔と変わらずにおどけて見せたり時には真剣な顔もしたり、それでいて私がなんで家を抜け出したのかなんてことは一言も聞かなかった。



「たまには家に顔見せや」



最後にそう言い残して、私の部屋の前で隊長と別れたのだった。


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