きき手やないほうの手で刀を構えたゆりがボクに向かってきた。 あかんなあ、そないな状態でボクに勝てるわけないのに。 こうなったらしばらく両腕使えんようにさせてもらおうか。 そしたらボクはゆりのこと殺さんでええから。 ゆりの腕を斬るつもりやったはずのボクの刀は、それよりももっと深く刺さったように思えた。 下を見ると悲しそうな表情をしたゆりと目が合った。 ボクの刀はゆりの胸を貫いていた。 「ゆり……なして……」 何や、意味がわからへん。 なしてゆりはわざわざ自分から死にに行くようなことしてんやろ。 まさかほんまにボクがゆりを殺すとでも思うててんやろか。 ゆりの身体から刀を引き抜くと、崩れ落ちるゆりを抱きとめた。 『ギン、私にはきっと藍染隊長は殺せない。ギンのことも殺せない。だから後はギン、に任、せ、る……』 任せるってなんやの? ボクかてゆりのこと殺せへんよ。 もしかしたらゆりは気づいてるんやろか。 ボクが藍染隊長を憎んでることに。 せやからボクに任せる言うたん? なあ、返事してや。 『ギン……好き…だよ……』 最後にゆりは確かにそう言った。 言い逃げなんてずるいやんか。 ボクかて言いたいことあったのに。 「ゆり、聞こえとるか?ボクも好きや、ゆりのこと。もうずっと前から。聞こえとるんやったら返事してや……ゆり……」 いくら呼んでも目開けてくれへん。 ずるいで、一人で逝くなんて。 最後くらいボクの我儘聞いたってな。 そしてボクは、動かなくなったゆりの唇に口づけた。 いつかまた会えたら……そん時は離さへんからな。 せやから少しだけ、ボクがそっちに行くまで我慢しといてや。 「またな」 動かなくなったゆりの身体を床に下ろし、ボクはその場を去った。 「ギン、ゆり君は?」 「死にました」 「そうか、辛いだろうね。彼女を手にかけるだなんて」 「どうですやろ、心なんてとっくの昔に捨ててますさかい」 藍染隊長に報告すれば、彼は満足そうに笑っとった。 心を捨てたなんて嘘や。 心ならさっき置いて来た。 ゆりんところに。 この先いつか、また会えるように。 それまでボクは心を持たない人形でええ。 ←→ back |