目を覚ますと冷たい床の感触。
身体を起こすとそこには誰も居なかった。



『藍染隊長……』



やはり彼は生きていた。
そして、気を失う直前に感じたのは今までにない恐怖。
あの人は、きっと私が、いや護廷の誰もが思っているよりもずっと強い。
私が勝てる確率はごくわずか。



「起きたんやね、ゆり」
『ギン……』



扉を開けて入って来たのはギン。
彼が此処にいるということは、私の敵だということを意味する。
腰に差した斬魄刀に手をかけた。
きっと、これでお別れだから。
もう少し、私と一緒に戦ってね。
カチャリ、と長年共に闘ってきた相棒が反応したような気がした。



「そないに怖い顔せんでもええやないの、ボクは忠告したったのに」
『その忠告を私が聞かないこともわかってたんでしょ?』
「せやなあ、そう思うたからボクが今此処に居るんや」
『どういうこと?』



「藍染隊長にゆりを殺させるわけにはいかへん」



そう言ってギンが彼の斬魄刀、神槍に手をかけた。
私も斬魄刀を抜き、伸びてきた刀を止める。



「ほんまはずっと眠っとって欲しかったんやけどな。そしたらボクがゆりを殺さんでもえかったのに」
『心配しなくても私はアンタなんかに殺されない!』
「ふうん、この状況でそないに強気なこと言えるんや」



ニヤリと笑うギンの刀の切っ先は私の胸に突きつけられていた。
対する私の刀はギンの首に。
後少し、手を動かせば私もギンも死ぬ。



『それはお互い様じゃない?』
「随分と強くなったみたいやなあ。零番隊も怖いところや」
『おしゃべりはこれくらいにして、そろそろ終わらせようか』
「せやな」



私が刀を持つ手を動かそうとした時だった。
私の胸に突きつけられていたはずのギンの刀は、私の腕を斬った。
カランという音を立てて、私の刀は床に落ちた。
恐らく腕の腱を斬られている。
急いでギンから距離を取るも、じりじりと彼は近づいて来る。



「どないするん?これでもう刀は握られへんよ」
『どうせなら……ひと思いに殺してくれればよかったのに』
「せやな。そのほうがボクも辛くなくてええのかもしれへん。尸魂界に未練が残るのは嫌やさかい」
『未練?ずっと、ずっと私を騙してた癖に!』



私が声を張り上げたその瞬間、ギンの張り付けたような笑みが崩れた。



「ごめんな、ゆりを巻き込みたくなかったんや」
『何よそれ、私だけじゃない、乱菊だって悲しませることになるのよ?』
「せやけどボクは、もう乱菊の泣き顔なんて見たくないんや。そのためにはこうするしかなかったんや。ボクが、ボクがあの人を……」



そう言ったギンの顔は切なくて、やっぱり二人の間には私の入れない場所があると痛感させられた。
私は怪我をしていない手で床に落ちた刀を拾うと、再びギンに向けた。



『ねえギン、一つだけお願いがあるんだ』
「なんや?」
『乱菊を泣かせないでね。泣かせたら許さないから』



私は真っ直ぐにギンに向かって走った。


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