「それにしても、ゆりが隊長の知り合いやったなんて驚いたわ」 昼、鐘が鳴ると同時に執務室に入ってきたギンと食事をとることになった。 とはいえ私は席官でもないただの新入隊士。 三席と一緒にいればいろいろと面倒なので、食堂ではなく隊舎の庭で弁当を広げている。 『驚かせてやろうと思ってね。でも会うのは六年ぶりくらいじゃないかな』 「ふうん。じゃあ、隊長が脱走したって言ってたのは?」 聞いてほしくないことを聞かれた、と思った。 それでもいつかはバレることだと思い、ギンに全てを話した。 私が死神になった理由。 それは一重にあのしがらみから抜け出したかったから。 私の生家は所謂貴族で、私はその長女だった。 長女ともなれば、家のために嫁ぎ先を決められ、私も例外ではなかった。 そして、あれはちょうど七年前。 まだ幼い私に縁談が舞い込んできた。 相手は上流貴族で、顔も知らないし名前も覚えていない。 それを親に告げられた次の日、私は家を出たのだ。 とは言えまだ幼い身、加えて今までろくに屋敷の外にも出たことがなく、私には行くところがなかった。 そんな時に思い出したのが死神の存在。 父親が平子隊長の知り合いで、私も度々彼に死神について聞かされていたので、一か八か私は入学試験を受けたのだ。 「ふうん、貴族って大変なんやね」 『そうだね。でももう私には帰る家もないし。あの家とは縁を切ったから』 霊術院に入ってすぐに親からの文が届いた。 内容は、お前が死神になんてなれるはずがないから今すぐに帰ってこいというものだった。 私はその場でその文を破り捨てた。 『で、晴れて死神になったってわけ』 「そら隊長も怒るわ」 ククッと楽しそうに笑うギンの頬を抓れば、少し紅くなった頬を抑えてこちらを睨んだ。 『平子隊長は心配しすぎなの。隊長にはちゃんと文を送ったし』 そうなのだ。 霊術院に入学してすぐに私は平子隊長に文を送った。 死神になります、と一言だけ書いた文を。 「あんなの文のうちに入らんっちゅうねん!」 今度は私が頭を叩かれた。 上を見上げれば隊長の長い髪の毛が顔に当たってくすぐったかった。 『隊長、髪の毛邪魔なんで切って差し上げましょうか?』 「余計なお世話や!朝は惣右介のせいで逃げられたけどな、今度はそうはいかんで」 『ギン、隊長に襲われる!』 こうして本日二度目の隊長との鬼ごっこが始まった。 騒がしいけれど、この隊に来てよかったと思った。 そんな死神一日目。 ← back |